日本はいい国だけど遠い国

小川:皆さんは現地のスタートアップと頻繁にディスカッションしていると思うんですけれど、彼らから見て日本企業ってどういう風に見えているんでしょうか。

中山:ブラジルの場合で言うと、日本に対しては、先進的な技術もある、お金もある、生活水準も高い、すごくいい国という印象があるんですけど、いざ具体的に何かをしようとすると遠すぎて、「お前、日本から来たかもしれないけど、ほんと、日本とつなげられんの?」という目で見られていると思います。

よく話す事例ではあるんですが、投資先の一つに農業ドローンの会社があります。ハードウェアの会社はコストがかかるし、PoC(Proof of Concept)するのも時間かかるし、ブラジルの国内だったら資金調達がしんどかったと思うんですけど、日本のドローンに特化したファンドから出資していただけたんです。そうすると、日本とのつながりができる。

逆に日本のアグリテック(農業領域に活用するICT)のスタートアップがブラジルを含めた中南米へ進出するお手伝いもさせていただいていて、そうすると、そのスタートアップやそこに投資している人たちを通じて、より多くの人たちに「ブラジルってなんか農業すごいらしいじゃん」という話が広がっていく。事例が2つ3つ増えていくとだんだんネットワークが大きくなっていって、日本とブラジルがより近い関係になれるんじゃないかと。

小川:なるほど。ロシアのスタートアップから見た日本はどうですか。

牧野:ロシアも日本自体のイメージはすごくいいですね。日本車も結構走っていて、日産もトヨタも工場があるし、寿司もかなりローカライズされてはいますけど、店が至る所にあります。漫画やアニメやコスプレが広く普及しているので、日本という国のプレゼンスは高いです。一方で、日本が近いかというと、そんなことはないんですよね。遠いからこその憧れ、みたいな感じになっています。

イメージはいいので最初はハードルは低いんですが、それがビジネスという話になったときに、時間感覚のズレがハードルになったりします。ロシアはトップ決裁なんですね。一方で日本は合議制でプロセスを経て決まるので、「なんだかよく分からん」「やってみたら、時間もかかるし」っていうので温度感が下がってしまい、ガッカリさせてしまうことがあります。ロシアはこの30年で国と経済の崩壊を2回経験しているので、あした何もかも変わるかもしれないという感覚があるんです。そういう人と、日本みたいに環境はそんなに変わらないよねという感覚の人が会ったときの時間感覚のズレが大きいんですよね。

エリアを制限せず、同時に世界を攻めるしか勝ち目はない

小川:ブラジルは時間感覚という点でどうなんですか。アフリカやロシアとは違うイメージがありますが。

中山:ブラジルはそんなに戦争に巻き込まれていない地域ではあるんですよね。第二次世界大戦も参加はしていますけど、ものすごい戦場になったわけではないですし。一次産業が盛んで食糧・資源が豊富なので、なんとか食っていけると。そこはちょっと違いがあると思います。でも、日本と大きく違う点は、ブラジルも、ハイパーインフレや、90年代前半にデフォルトを経験しているので、自国の経済に対するある種の不信感はあります。

ただ、時間感覚で言うと「大きな失敗をしなければ未来永劫安泰」というのが富裕層の考え方で、高い教育を受けたエリート層が起業してこなかった歴史があります。起業して10年頑張って事業が10億円くらいで売れたとして、手元に2割くらい残る計算をしても2億円じゃないですか。それだったら、外資系企業でエリートをしていた方がよっぽど稼げるし、金利も10%を超えていた時代が長かったんで、そこで回していた方が儲かったんですよね。リスクを取るメリットがなかったんです。ところが近年、金利が2%くらいになり、スタートアップの中でNASDAQやNYSEで8000億円でエグジットするケースが出てきたんで、こうなってくると「ちょっと違うぞ」という感じになってきたのは、ここ2、3年ですね。日本でいう、2000年代の動きと似ていると思います。

寺久保:そうですね。アフリカも、ここ2年だと思います。それまでは非常に懐疑的でした。

同じように、2019年、NYSEに時価総額1500億円で上場したナイジェリアのEコマースの会社が出てきたり、来年ロンドンに上場を控えているフィンテックの会社があったりだとか、まさにユニコーン企業(時価総額が10億ドル以上と評価される、未上場のベンチャー企業)が出てきて、欧米・中国のスタートアップ投資が加速し、何十億円という額で投資が始まっています。

日本の企業は全然こちらに来ていないということが僕の中に課題としてあって。日本企業の人から「東南アジアに行って、それからインドに行って、そのあとがアフリカなんですよ」という話を聞くことが多いですが、欧米・中国の企業を見ていると『同時に攻める』ことを考えている。「インドもやらなきゃいけないけど、先を見てアフリカも今からやっておかなきゃいけないから」と投資を始めている。成長段階になってから彼らに接していけばいいと考える日本企業がたまにあるんですが、そのころになって日本企業とつながるメリットは薄いんです。僕の見ているようなシード期のスタートアップがレイター期になってからでは、既に投資している欧米・中国の企業には勝てなくなると考えています。

中山:まったく同感です。

僕は『海外にアンテナを張っておきましょうよ』と思うんです。出たくてもなかなか出られるもんでもないんですよ、海外って。だから、アンテナを張っておいて、そのときが来て、自社もそのタイミングに来たら、グッと出ていくものだと思うんですよね。寺久保さんの話にあったような「順番」みたいなものが決まっていたりすると、アフリカにチャンスがあるのに、「いや、今はアジアの方ですったもんだしてまして」というよく分からない理由でそのチャンスを逃してしまう。

その「張る」ことは、2000億円くらい必要なプロジェクトを300回やるって話じゃないと思うんです。寺久保さんのファンドに5億円出しておくと、アフリカのこれから興る産業の話があっという間に入ってくるわけですよ。50社の中身の情報が入ってくるわけですよね。

日本人が海外進出というと、一番競争が厳しくて大変なシリコンバレーに挑戦しに行っちゃうんですけど、競争がまだ緩い新興国に全部張っておいたら、トータルでアメリカよりでかくならないですか、というのが僕の考えです。WhatsAppはいい事例で、WhatsAppってメッセージアプリの中で圧倒的に世界一なんですよ。創業者はアメリカ人ですが、アメリカではあまり使われていないんです。「まずは本場アメリカでトップを獲らねばー」なんてもしやっていたら、Facebookやら他の人たちに負けちゃっていたわけですよね。一般論じゃなくて、個々の会社とそのマーケットのタイミングってあると思います。ある国だけを狙ったとしても予想できなかったことは起こるので、やっぱり「張っておく」ことはすごく大事だといつも思っています。

小川:日本企業は攻めるエリアに順番が付いていることが多いですね。

中山:最初は距離だと思っていたんですよ。でも実は物理的な距離じゃなくて、心理的な距離だと思うんです。ブラジルに来たことがある人は少ないんですけど、来た人はリピートしちゃうんですね。一度来たら、「実はなんとかなる距離だな」とか「こういう面白いことがあるんだったら、また来ます」と。だって、これって、渡米プラス10時間を惜しんですっごいビジネスチャンスを逃すのかって話だと思うんです。

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