令和元年は、医療機関においてRPAの活用が進んだ一年であった。大学の医学部附属病院や民間病院でRPAの導入が進み、ニュースや各種セミナー、学会等でその成果や課題が報告されるようになってきている。またRPA活用の業界団体として、一般社団法人メディカルRPA協会が発足し、病院、介護施設、調剤薬局など、医療に携わる法人や団体が、RPAによる業務の効率化や質の向上について情報共有する動きもある。
弊社は、2017年より高等教育機関(大学)や医療機関(大学附属病院・民間病院)に対してRPAの活用を提案し、共同研究や実証実験、導入等の様々な支援を行ってきた。本稿では、医療機関におけるRPAの活用事例を示し、今後より多くの成果をあげていくためには、どのような課題に取り組んでいくべきかについて、ご紹介したい。
RPAとは
RPA(Robotic Process Automation)は、従来人間がコンピュータを操作する作業やプロセスを自動化するテクノロジーであり、2015年頃からの金融機関での導入を皮切りに、現在ではあらゆる業界に広がりを見せている。ソフトウェアロボット(「デジタルレイバー」とも呼ばれる)が、データ集計やレポート作成等、機械的な作業を24時間365日休むことなく正確かつ高速に実行することでホワイトカラーの作業代行が可能とされ、働き方改革の一つとして活用が進められている。
医療機関におけるRPAの活用事例
医療機関にRPAを導入する目的は、医療従事者の業務負担を削減すると同時に、医療の安全の質を向上させることにある。
①医師の業務負担の軽減
医師が診療サービスにより集中できるようにするための解決策の一つとして、医師のタスク(業務)の他職種への移管により、医師の業務負担を軽減する「タスク・シフティング」と呼ばれる手法がある。しかしながら、移管先となる事務職員や看護師等に新たに業務を引き受ける余力がないため、なかなか進んでいない状況にあった。
弊社は、事務職員や看護師等の業務をまずRPAに移管し、それによって生み出された余力に医師のタスクをシフトさせる「ダブル・タスク・シフティング」と呼ぶ手法を提唱している(図1)。
②事務部門の業務自動化
財務会計や人事のシステム、電子カルテシステム、医事システムなどを操作し、データの抽出・加工やレポートを作成する等の事務部門業務に、RPAを適用する。なお、ある国立大学医学部附属病院での調査では、RPAにより削減可能な総時間の半分以上が、電子カルテや医事システムを操作する業務のロボット化によるものであった。
- 経理部門:旅費精算関係書類データ抽出ロボット
- 人事労務部門:医師勤務時間計算ロボット
- 総務部門:会議開催案内メール自動送付ロボット
- 経営企画部門:病院患者数統計資料作成ロボット、科学研究費収支簿作成ロボット
- 医事部門:病院収入計上処理ロボット、過誤納リスト作成ロボット
- 広報部門:病院情報クローリングロボット(Twitterなどの情報を定期的にチェック)
③薬剤師や看護師のサポート
ロボット開発に薬剤師や看護師などが自ら参画するケースもある。
- 患者情報(薬歴・血液検査値等)レポート作成ロボット
滋賀医科大学では、電子カルテシステムやデータウェアハウスから患者の薬歴情報や血液検査値を収集してレポートを作成するロボットが、薬剤師によって開発されている。薬剤師自身がシステムから集めている患者情報の収集作業をロボットに代行させ、薬剤師は患者に対する医療サービスにより多くの時間を費やすことが可能となるように取り組んでいる。 - 重症度、医療・看護必要度チェックロボット
「重症度、医療・看護必要度」は、急性期の患者への看護の必要性を測る指標であり、病院のいわゆる重症患者の割合を示すが、そのチェックは看護師にとって大きな負担となり、ミスや漏れが生じやすい業務である。同じく滋賀医科大学では、データからチェック漏れを抽出して病棟の看護師長に報告するロボットを、看護師が自ら開発している。看護師が患者に向き合える時間が増え、看護の質の向上につながることを目指している。
④医療安全の質向上
RPAは、医療の安全を確保するためにも活用されている。
- 血液検査値チェックロボット
2019年7月よりRPAを本格導入した東京歯科大学市川総合病院は、血液検査値をチェックするロボットを開発している。eGFR値が基準値以下の患者に対してはCTとMRI検査時の造影剤投与が禁止されているため、基準値以下で翌日以降検査の予定がある患者のリストをロボットが作成し、レポートする。
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