今、「サブスクリプション」というビジネスモデルが注目を浴びています。AmazonプライムやNetflix、Spotifyのようなデジタル系の配信サービスから、化粧品や家電製品、カフェ、ラーメン等のモノ系の定額課金サービス、更にセールスフォースやマネーフォワード等のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)と呼ばれるクラウドサービスに至るまで、世界中のあらゆる業種で急速に導入されつつあります。
サブスクリプションは、消費者と事業者が一定期間において契約関係にあり、その間の利用に対する料金の支払いが発生する状態を指します。一度契約すれば、解約されない限り支払いが続くため、ゼロから売上を積み上げていく必要がありません。将来の収益が見込めるので、投資を計画的に進めることができ、企業側にも大きなメリットがあります。しかし、従来の売り切りモデルからサブスクリプションへマネタイズを転換するだけで、成功するわけではありません。
物心ついたときからインターネットとデジタルデバイスを使ってきたミレニアル世代(1981~96年生まれ)は、ネットを介した価値観に基づく合理的な行動を重視します。彼らが経済取引の中心となって社会への影響力を増すと同時に、個人の遊休資産をネット経由で他者にも利用可能にするシェアリング・エコノミーが進展することで、何かを「所有」するよりもスマートに「利用」するトレンドは不可逆的な流れとなりました。また価値の提供者と利用者の関係も、受発注というビジネス上の立場を超え、相互に評価しあう仕組みにより、コミュニティのような持ちつ持たれつの関係へ変わろうとしています。
従来の売り切りモデルの企業は、事業活動を機能ごとに分類して、バリューチェーンの付加価値を上げてきました。つまり、モノが購入されるまでのプロセスを最適化することで、利益を上げてきたのです。しかし、価値が「所有」から「利用」へと変化した今、これからの企業は、購入された後もユーザーの生活(ビジネス)をアップデートしつづけるサービスを提供しながら、ユーザーとの長期的な関係を維持・強化する「カスタマーサクセス(顧客の成功体験)」を起点に、自社の存在価値と事業活動を再設計する必要があります。サブスクリプションは、その実現方法の1つに過ぎません。
トヨタ自動車は2018年1月、AmazonやUberなどと提携し、単なる自動車メーカーから「人々の様々な移動を助ける会社、モビリティ・カンパニー」への変革ビジョンを発表しました。モノづくりの勝者としてのマインドセットを克服することは、決して簡単なことではないでしょう。しかし、顧客にとっての成功とは何かを根本から見つめ直し、自社のビジネスをサービスとして再設計する取り組みが、日本企業にとってますます重要になってきています。
<書籍紹介>
『カスタマーサクセスとは何か ― 日本企業にこそ必要な 「これからの顧客との付き合い方」』 弘子ラザヴィ(著) 英治出版 2019年 |
『「つながり」の創りかた ― 新時代の収益化戦略 リカーリングモデル』 川上昌直(著) 東洋経済新報社 2019年 |
『すべての企業はサービス業になる ― 今起きている変化に適応しブランドをアップデートする10の視点』 室井淳司(著) 宣伝会議 2018年 |