新興国から世界を見直す

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ケニアではM-PESAというモバイルマネーが普及しています。Safaricomという通信会社が2007年に始めたものですが、ケニアでは69%*1の普及率を誇っています。もともと都市部から農村部へ安全に仕送りができるということで普及した*2のですが、普及に伴いM-PESAを利用した様々なスタートアップが立ち上がってきています。BNPL(Buy Now, Pay Later)と呼ばれる分割払いの小口決済サービスは代表的なものです。

こうした動きはリープフロッグ現象と称されます。先進国に比べ、インフラ等が整っていない新興国にデジタル技術がもたらされることで、一足飛びにデジタルを活用した革新的なサービスが生じることを表した言葉です。新興国では取引における情報の非対称性が大きく、透明性と信用が不足しがちです。そこをデジタル技術で埋めることで、ときに大きく飛躍したサービスが開発されることになります。「デジタル化の時代に求められる社会的な能力は様々な試行錯誤をする環境を整えること」*3であり、規制や既存ビジネスの弱い新興国は試行錯誤の現場として適しているのです。

新興国で開発されたサービスが先進国に逆輸入される例も増えてきています。一般的にデジタル化はスタンダード化を志向します。ネットワーク外部性の強いデジタル技術ではスタンダードなプロトコルにみんなが従ったほうが格段に利便性が高まるためです。この特性を使い、グローバル・スタンダードという名目のもと、「世界に向けたスタンダード戦略」*4を展開していったのが欧米各国でした。「もとを辿れば、ニクソン・ショックによってドルの基軸通貨としての強みを目減りさせた米国が、新たな世界戦略として打ち出したものに過ぎない」と『鉄道ビジネスから世界を読む』の著者は言い切っています。そのことは新興国には見透かされてきており、より新興国の現実に即した別の「スタンダード」を志向する国々も出てきているといいます。

最近の国際情勢は、変化がかなり急激かつ複雑です。冷戦期の米ソの対立のようなシンプルな2軸ではなく、多極化した多様な相互作用が生み出されています。例えばアフリカでは、スタートアップ投資では米国投資家の存在感が非常に大きい一方で、鉄道をはじめとしたインフラ投資では中国が、そして古くからインド洋交易圏を形成していたインドや中東諸国も存在感を示しています。そこでは欧米が築き上げてきたグローバル・スタンダードという価値観だけではなく、様々なスタンダードがしのぎを削っていると言っても過言ではありません。

そういった動きを冷静に見定めるためにも、善い悪いという自分の価値観はひとまずおいて、多様な視点を持つ努力を続けることがこれからビジネスを展開するうえで重要なことになるのではないでしょうか。

  1. 2021年の数値、The World Bank調べ https://www.worldbank.org/en/publication/globalfindex/interactive-executive-summary-visualization
  2. それ以前は現金の送付を人に頼んでいたが、持ち逃げ等が頻発していた
  3. 『デジタル化する新興国』第3章より引用
  4. 『鉄道ビジネスから世界を読む』第2章より引用

書籍紹介

『鉄道ビジネスから世界を読む』
小林 邦宏( 著)
集英社インターナショナル 2022年
『デジタル化する新興国
―先進国を超えるか、監視社会の到来か』
伊藤 亜聖( 著)
中央公論新社 2020年
Skylight Consulting Inc.

Skylight Consulting Inc.

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