仲間とつくる現実は自分の理想を超えていく

INTERVIEW

本年2月、黄金株を活用し、パーパスを守りつつ上場企業の子会社となった英治出版。その共同創業者、原田英治氏をお迎えして、創業以来大切にしてきた経営理念や事業承継への想いを伺いました。(取材日 2024年3月)

写真左から、英治出版共同創業者 原田英治氏 スカイライトコンサルティング代表取締役 羽物俊樹

原田 英治 氏
英治出版共同創業者

島根県隠岐郡海士町、北海道上川郡美瑛町などへの地域活動支援のほか、第一カッター興業株式会社(東証1716)社外取締役、公益財団法人かめのり財団理事を務める。趣味は、囲碁、トライアスロン、海あそび。

英治出版
1999年創業。「Publishing for Change“みんなのものにする”ことを通して人・組織・社会の未来づくりを応援する。」をパーパスとして、ビジネス書・社会書をはじめとするさまざまな書籍の出版などに取り組んでいる。https://eijipress.co.jp//

英治出版の沿革

ー出版社を経営してきたというより、組織づくりをやってきた

羽物:原田さんとは30年以上前、アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)の内定時期からの付き合いになるので、今日は記憶を辿りながら、言葉も多少くだけたものになることをご容赦いただければと思います。まずはこの25年を振り返ってどうですか?

原田:自分自身は出版社を経営してきたというより、組織づくりをやってきたという感覚の方が強いんです。というのも、1999年の創業時、出版社を創ったのは親の会社を辞めた時に引き取った出版企画を続けるという一つの偶然で。創りたかったのは出版社ではなくて、「英治出版で働く人や関わる人が幸せになる組織」でした。

でも、出版というのは「著者を応援するビジネス」なので、これは自分の肌に合っていたし、人との関係性の中で価値をつくり出していくというのが好きだったので天職だなと。自己資金だけではどうにもならないというのがあって、株式会社化後にアクセンチュアの先輩と大学時代からの友人を頼り、友人たちには「このお金がもし無くなっても友達でいられるだけの額を投資してくれ」ということで、1,700万円の資本金の会社になりました。

最初の数年は日本の出版社がまだやっていないことにトライして、話題になろうと必死でしたね。オンデマンド印刷による「読者最適サイズ」を提唱して「これからの本は書名とサイズを言って買う時代です」と紹介したりだとか、「オンラインでの立ち読み」に挑戦したりだとか。富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)さんにも「オンデマンド印刷の使い方」についてのセミナーをやらせてもらったりしました。

羽物:英治出版の特徴の一つとして、「ブックファンド」が挙げられると思うけど、始めたきっかけは?

原田:ブックファンドという言葉自体は、近藤正純ロバートさんがやっていたレゾナンス出版(現レゾナンス)の事例で知っていました。

英治出版は資本金300万円で始めているので、最初の本を出して、印刷代金を振り込んだら、もう次の本を出すお金は残らないんです。一方で、アクセンチュアの先輩だとか本を出したい人たちは僕らよりはるかにお金を持っているわけで、そういう人たちが出版社に頭を下げて企画を売り込む構造は、いびつだと思っていました。また、出版社が利益を上げられる本しか出版できないのも好ましくない。だったら、その出版に共感する人たちが資金を出し合うブックファンドという仕組みを使って“出版”を開放すれば、両者にとって本当の利益になる出版を提供できる。

また英治出版は当初から「著者を応援する」出版社で「絶版にしない」出版社とも謳っていました。コンテンツのデジタル化によるオンデマンド印刷やオンライン立ち読みの仕組みは、そのための「技術的保障」です。ただ倒産すると結局は絶版になってしまう。「売れるか、売れないか」ではない受注産業的なモデルを「経営的保障」として利用することで倒産しづらい仕組みができる、と。これまでに、累計で約3.5億円の出資により、73タイトルを出版することができました。

ー誰がどんな創造力を発揮するのか分からない

原田:2000年3月からの一年間では1,600万円の売上しか上がらず、2001年3月に和田さん(初代編集長)と「この本が売れなかったら廃業だね」と言っていた時に、まさにその『マッキンゼー式世界最強の仕事術』が大ベストセラーになりました。5月の株主総会の時に「去年一年間はひどい年で、皆さんからいただいた資本金をほぼゼロにしてしまったのですが、いま5月の段階で’売れてます’」とお伝えし、なんとか勘弁してもらって。振り返ると売上900万円、1,600万円、1億円ちょっと、と毎年一桁ずつアップする成長を遂げました。その翌年、10億円だったらかっこよかったのですが。

羽物:そう甘い世界ではないと(笑)。

原田:で、2002年からご縁があって、社員が一人、二人と増えていくのですが、社員に対するマネジメント的な観点で言うと、「小さい会社だから小さい仕事しかできない」とか「幸福感が低い」というのは避けたいと考えていました。

大企業のような福利厚生は小さい会社では難しい。成長や仕事の面で社員をどう支援できるかを一生懸命考え、たとえば「一年に1回はブックフェア等への海外出張をする」とか。ブックファンド自体が自己資本以上の大きな仕事ができる仕組みだし。働き方については、今もそうですが、かなり自由度を持たせています。とにかく英治出版で働いていることが良かったと思えるような経験になることをお金が無いなりにもやろうとしていました。

それとよく皆で飲みにも行きましたね。これも小さな福利厚生だったんじゃないかと思います(笑)。

羽物:企画会議には社員全員が参加して、企画に全員が関わるというのは英治出版のスタイルの大きな特徴だと思います。

原田:根底にあるのは子どもの時にうちの父親から聞いた「どんな社員もみんな意見を持っているよ」という言葉です。父親は印刷会社の経営者でしたが、活字を拾う職人の人も、事務の人も「みんな意見を持っている」と。

あと英治出版を創った時に『コーポレート・クリエイティビティ創造力発揮6つのポイント』(アラン・G・ロビンソン、サム・スターン著)という本を参考にしていて、この本では「誰がどんな創造力を発揮するのか分からない」ことを「予期せぬパワー(the power of unexpected)」と定義しているんです。

企画会議では、皆からのフィードバックが充分に終わったなとか、プロデューサーの準備が充分にできたなと皆が感じ取った時に「そろそろいいね」と拍手が起こります。これが決定の合図という形になっていき、全員の応援する姿勢が整ったということでもあります。

採用についても、高野くん(本年5月に代表取締役就任)を採用した時が公募型採用の最初だったと思うけど、「エッセイ採用」という形にしました。「履歴書を送ると不合格ですよ」と。応募者のエッセイを社員皆で読んで選考するという社員全員参加型の採用にしたことで、僕は採用を手放したようなものです。その副次的効果として、On-Boardingをしやすくなり、皆で仲間に対する責任を共有し、集まった仲間を応援し合う文化になっていきました。

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