適応すべき難題に挑む

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新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、在宅勤務を含む働き方改革やデジタル・トランスフォーメーション等、これまで様々なメリットや必要性が謳われながらも真剣に取り組めなかった課題に、否が応でも取り組まなければならない機会となりました。しかし管理職や勤続年数の長い社員ほど、そのような課題に適応することは大変かもしれません。「正しい」とわかっていても、何年も積み重ねてきたビジネス慣行や環境を変えることは、それぞれの立場で心理的な痛みや喪失をともなうからです。

ハーバード・ケネディスクール(行政大学院)上級講師のロナルド・A・ハイフェッツ氏らは、これまで成果をあげてきた経験や蓄積されてきた専門的知識を使って解決できる「技術的問題(technical problem)」とは別に、社会や組織・個人の従来の価値観や信念が絡んで一筋縄では解決できない問題を「適応課題(adaptive challenge)」と定義し、大きく4つの基本パターンに整理しています。

①大切にしている価値観と行動のギャップ……大切だと言っていることと、実際の行動が一致しない。頭ではわかっても短期的な合理性を優先してしまう。
②コミットメントの対立……営業部門と製造部門の対立等、組織内で多くのコミットメント(合理性の根拠、枠組みの違い)が存在し、それらが対立する。
③言いにくいことを言わない……上司や同僚との間で何かを言うことが難しい関係にある。あるいは言ってしまうと厄介なことに巻き込まれて損をする。
④回避行為……痛みや恐れをともなう本質的な問題を回避するために、問題をすり替えたり、責任を転嫁したりすることで、自己防衛を図る。

私たちが自分自身や人間関係、組織の内外で直面する課題の中には、技術的問題だけでなく、上記のような適応課題が複雑に絡み合っているケースが数多く存在します。

ハイフェッツ氏らは、こうした課題に向き合う時、私たちはまずダンスフロア(問題が生じている現場)と距離を置き、バルコニーに上がって実際に起きていることを客観的に俯瞰しながら、痛みや恐れと向き合う準備をしなければならない、と説いています。また経営学者の宇田川元一氏は、自分にも相手にもナラティヴ(その人が置かれている環境における視点や一般常識)が存在し、どちらが正しいかを問うのではなく、対話を通じて新しい関係性を構築することが、自身と自身の環境に重要な変化をもたらすことになる、と述べています。

痛みや喪失をともなうことへの適応は、「何を諦めなければならないのか?」だけでなく「将来に向けて大切にしたい価値観や強みは何か?」を見極める機会にもなります。パンデミックが収束しても、私たちの仕事や生活様式が全く元通りになることはないと予測される今こそ、こうした難題とじっくり向き合うことが、新しい未来への準備となるのではないでしょうか。

<書籍紹介>

『最難関のリーダーシップ
― 変革をやり遂げる意志とスキル』
ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティ・リンスキー、アレクサンダー・グラショウ (著)
水上雅人 (訳)
英治出版 2017年
『他者と働く
―「 わかりあえなさ」から始める組織論』
宇田川元一(著)
NewsPicksパブリッシング 2019年

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