DX推進に必要なプロジェクトマネジメントスキルを考える /斉藤 学

COLUMN

DX時代に求められるプロジェクトマネジメントの方向性

今日のビジネスにおいて、業界・業種問わず「プロジェクト」という言葉が広く、日常的に使われている。
身近なものとなった「プロジェクト」という仕事の進め方。この成功確率を高めるための知識・方法論が「プロジェクトマネジメント」である。その適用領域は公共事業から、企業での事業開発や業務改革、そして個人での起業に至るまで幅広い。

その一方で、ビジネス環境の変化に伴う形で、プロジェクトマネジメントに求められるスキルセットも変化が起こっている。特に、最近の企業におけるホットな経営課題の1つに「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進がある。
DXとはデジタル技術を用いて、企業におけるビジネスモデルそのものを変革(トランスフォーメーション)することであると一般的には認知されている。DXにおいては推進当初に明確なプロジェクトの成果(アウトプット)を定義できず、試行錯誤(検証と実証の繰り返し)の中で求められる成果を確定していくアプローチがとられる場合も多い。

このようなゴールそのものが変化するプロジェクトでは、伝統的な「計画主導型」のプロジェクト運営やマネジメント(最初にすべての要件と仕様を固め、その開発・実行の際にリスクと変更を最小化し安定的に行う運営)では対応しきれないことが多く、「環境適応型」のプロジェクト運営やマネジメント(不確実性や変化に積極的に適応していく運営)が必要となる場合が多い。私が担当するクライアントでのプロジェクトでもそうしたケースが増えてきている。
こうしたプロジェクト特性の変化に対して我々は今後どのように対応すべきか? これは企業におけるプロジェクト推進人材を育成する現場でも悩み多き課題である。実際、私が参加しているJUAS(一般社団法人 日本情報システムユーザー協会)の組織人材育成研究会でもその研究テーマの1つに「DX推進人材の育成」が掲げられており、その関心の高さがうかがえる。

そこで今回は「DX推進プロジェクト」に必要となるプロジェクトマネジメ ントの方向性として、PM(Project Management Institute)が提唱するスキルセットモデルである「PMIタレント・トライアングル™」について紹介する。

PMIは総会員数58万人、全世界に300か所以上の支部があり、プロジェクトマネジメントに関する啓発・普及活動を国際的に行っている団体である。その代表的な活動として、プロジェクトマネジメントに関する知識体系である「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」等の各種マネジメント標準の編纂や「PMP(Project Management Professional)」等のプロジェクトマネジメントの専門性を担保する資格制度をグローバルに展開している。そして、私自身もPMI日本支部のボードメンバーの1人として、国内におけるプロジェクトマネジメントに関する啓発・普及活動推進の一役を担っている。

タレント・トライアングルではプロジェクト推進を担うプロジェクトマネジャーが持つべきスキルセットを「戦略とビジネスのマネジメント」「テクニカルプロジェクトマネジメント」「リーダーシップ」の3領域で示している(図参照)。ただし、あくまでもあるべきスキルセットの「枠組み」として、3領域に関する知識・経験をバランスよく習得することを推奨するものである。いわゆる「スキル辞書」的に詳細なスキル定義を行っている訳ではない。

PMIではこの枠組みをPMP等のプロフェッショナル資格の試験制度や資格維持要件に採用することを通じて、その浸透を図るとともに、プロフェッショナルな専門性としての品質を担保している。

PMIタレント・トライアングルとは

ではこのタレント・トライアングルについてもう少し詳しく中身を見ていく。

タレント・トライアングルは、グローバルでのプロジェクトマネジメントに対する期待の変化を踏まえ、デジタル技術を活用したイノベーションが競争力を大きく左右する時代のマネジメントスキルとして2013年に登場した。その後2015年にはPMPの資格維持要件の枠組みとして採用され、3領域それぞれに該当する31項目のスキル例が提示された。

その本質的なコンセプトは複雑化するプロジェクトをマネジメントする土台として「俊敏さ(アジリティ)」を重視し、前述の「環境適応型」プロジェクトへの対応を掲げている。そして「今の複雑で競争が激化したグローバルな市場では、テクニカルなスキルだけでは不十分」という強いメッセージが込められている。つまり、伝統的な「計画重視の管理とQCD(品質・コスト・納期)の完遂」は、依然としてプロジェクトマネジメントの重要な技術ではあるものの、それだけでは今後の経営層の期待に応える存在とはなりえないことを意味している。

経営層のプロジェクトマネジメントへの期待は、DXを推進するためのビジョンと戦略に基づき、プロジェクトの効果(アウトカム)を明確にし、その実現のためのプロジェクト成果(アウトプット)を自ら定義できることへ今後シフトする。つまり、複雑化する経営環境のなか、クライアント、パートナーをはじめとする様々な利害関係者(ステークホルダー)の期待を理解し、ビジネスでのベネフィットを実現できることが求められる時代となる。

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