一般的なRPA導入の進め方
弊社では、RPAの導入に向けて約3ヶ月間の実証実験を提案している(図2)。
実証実験では、始めにプロジェクトメンバーが研修を受け、簡単なロボットを開発する。「システムにログインする」「画面にデータを入力する」「Webサイトから情報を取得しExcelファイルに書き込む」といった作業をRPAソフトウェア上で行い、ロボット用の作業手順書を作成するプロセスを学ぶ。
次にメンバー自身が実際の業務を対象としたパイロット開発に取り組む。経験豊富なRPAエンジニアも参画し、サンプルロボットの提供など、ロボット完成までの支援を行う。完成後は病院内の発表会でパイロット開発の成果を報告し、RPAの可能性や参加メンバーの所感などを直接マネジメント層と対話し、今後の取組方針を決定する。ペーパーレス化やITツールの活用による業務改善案も提案され、業務の在り方を見直す良い機会ともなる。弊社の事例では、約10名程度のメンバーが実証実験中に開発したロボットだけでも、年間数百時間の業務時間を削減する効果をあげている。
最後に、実証実験の成果やRPA導入計画をマネジメントに報告し、本格導入を判断いただく。承認が得られれば、必要な機器やRPAソフトウェアライセンスの調達、体制構築など本格導入に向けた準備に入っていく。
RPA導入の課題と成功要因
RPAによる業務自動化が大きな成果を上げるためには、以下のような課題解決が必要である。
①RPA推進体制の確立
本格導入した病院からは、業務自動化の継続やノウハウの蓄積が難しいという声をいただく。時間不足で活動できないメンバーが出てくる場合もある。このような問題に対しては、実証実験に参加した数名のコアメンバーが、外部エンジニアの支援も得ながらロボット開発の研修や開発方法のマニュアル化などを推進する組織(RPA推進体制)を立ち上げていただくよう提案している。
このような体制の構築には、マネジメント層のリーダーシップと、コアメンバーのオーナーシップが不可欠である。マネジメント層はコアメンバーに必要な活動時間を与え、コアメンバーは定期的に活動状況や成果を病院内に発表し、課題の共有や協力の依頼を行う。また、他病院や学会などとも積極的に交流し、新しい業務の在り方を作り上げていくことも求められる。
②診療ネットワークへのアクセス
医療機関には、電子カルテシステムや各種診療情報を格納するデータウェアハウス等の様々な情報システムがデータ連携する「診療ネットワーク」が存在する。現状、各種システムよりデータをダウンロードしてExcelで集計・加工する等の作業に、職員の多くの時間が費やされているため、診療ネットワーク上のシステムにロボットがアクセスできることが最も重要になる。
しかし通常、病院内で診療ネットワークにアクセスできるPCは厳しく管理されていて、承認が下りないケースもある。その場合、RPAが適用される範囲はExcelファイルやデータの加工などに限定されるため、十分な効果を上げることができない。RPAを導入する際には、診療ネットワークへのアクセスについて、マネジメント層や情報システム部門も巻き込み、コンセンサスを得る必要がある。そのためには、既に導入済みの他病院を見学して情報交換するなども有効である。
③自動化対象業務とロボットの共有
導入を検討している病院からは、どのような業務をロボット化すればよいのか分からないとの声もある。弊社では、ご相談いただいた業務について実際のシステムや帳票、ファイル等を確認した上で、ロボット化の可否や開発の難易度を判定してフィードバックしている。自動化に向いている業務は、実証実験でイメージを掴んでいただくことも可能である。
一方、他の病院の開発事例を知りたいとの声をいただくことも多い。2019年に発足した一般社団法人メディカルRPA協会では、自動化された業務やロボットの仕様について情報提供を行っているため、このような会を通じて他の病院と積極的に交流し、成果を共有していくとよいだろう。特に同じメーカーの電子カルテシステムであれば、ロボットの作り方や作業フローを共有することによって、業務自動化をスピーディーに進めることが可能である。
おわりに
現在医療機関では、新型コロナウイルス感染症対策が最優先課題となっている。発熱外来患者の問診票自動登録ロボットを開発する動きも出てきており、RPAによる自動化は拡大していくものと認識している。弊社では今後も医療機関や学会、業界団体と連携し、医療に関わる人々の働き方改革や問題解決に貢献していきたい。
小山 隆 Takashi Koyama
スカイライト コンサルティング RPAチーム マネジャー
大手SIer、外資系コンサルティング会社を経て2002年スカイライト コンサルティングに参画。大規模システム開発、業務改革、アウトソーシングプロジェクトに従事。2017年より、高等教育機関や医療機関に対して、RPAによる業務自動化の実証実験、教育、導入・運用の支援を行っている。現在、2019年に発足した一般社団法人メディカルRPA協会と連携し、医療分野における働き方改革の推進に力を入れている。
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