ー 人材を成長させている企業や成長できている人材が持つ要素は何でしょうか

椋田:成長できる人は、自分のところに来た機会を楽しめる、ポジティブにとらえることができる人だと思います。成長したなと感じる経験は、たいてい苦しいことが多いので。

赤羽:成長できる人材について、一言で言ってしまうと、「素直である」ということが大事だと思っています。自分自身のできていることと、できていないことにちゃんと向き合えることを「素直」と表現しています。素直に自分と向き合えない人は成長する余地を自分自身で狭めているように感じます。

上司を含めて、周りから何を言っても、自分はできていると勘違いをしてしまうとせっかくの成長の余地がなくなってしまう。私自身が評価の仕組みを提供している立場ではありますが、正直なところ、評価という言葉が持つ印象は好きではありません。評価は、あくまで育成の一部であって、育成という大きなくくりのなかのひとつの機能として評価というものがあると考えている企業は、人材を成長させているように感じます。

椋田:評価は重要なイベントです。評価のタイミングで振り返りができ、成長に繋がるきっかけが得られます。ですが、評価という言葉に、いい印象を持たない人も少なからずいます。直近でやってきたことのみを評価する、されるといった関係性だけでなく、評価を育成プログラムの一環と位置付けることで、評価というイベントを通じて成長のきっかけを獲得してもらいたいという会社の想いを伝えることも必要になってきているのかもしれません。

松丘:どういう状況でも、素直になれるということは難しいことです。周りの人たちができないことを責めてしまったりして、素直にさせない環境を作り上げている。こういう状況では、自己肯定感の有無が大事になってくると感じています。

赤羽:確かに、自己肯定感は大事ですね。自己肯定感を下げない、また自己肯定感を高めていくような仕組みづくりが求められてきますね。それこそ、1on1やポジティブフィードバックが活用できるのではないでしょうか。ただ、ポジティブフィードバックを行うことが恥ずかしくて難しいことも自分自身の経験も含めて感じています。

松丘:1on1やポジティブフィードバックが上司世代にとって難しいのは避けようがなく、これには技術や知識といった部分で支援していくことが求められていると思います。また、評価を会社目線で見ると、例えば報酬を決めたりとか、昇進・昇格を決めたりするのに何らかの客観的な基準がないと、適正な経営判断をしているように見えないので、客観性を担保するために評価基準を作っている。これは、社員にはなんら良い点はありません。

「あなたは今期Bでした」以上の、本当に欲しいフィードバックはほとんどされていないわけですね。フィードバックに関しては、上司だって常に見ているわけではないので、周囲の人からの多面的な視点でのフィードバックをもらう360度フィードバックなども合理的なのではないかと思います。今は、評価とは分けて、育成を目的として実施している企業も出始めてきています。

椋田:会社の視点でどのように育ってほしいのか、どういうスキルを身につけてほしいのかということを伝えていくことも大事だと思います。

松丘:目標設定との関係で言えば、やはり上から下りてくる売上や利益の目標が多いと仕事の意義が感じられないわけです。会社の売上が増えるのはわかるが、それがどう社会の役に立っているのかわからない。なので、会社の社会的意義を果たすために何を目標にするか、OKRで定義できるようにすることを私たちの事業としているのは、そういった理由です。パーパスや会社の無形資産の価値を高めるような目標に向けて頑張ろうという気持ちになれると考えています。

ー これから求められる人材育成とはどういったものでしょう

赤羽:先ほど、松丘さんがおっしゃっていましたが、評価もいきなり「君は何点だったから」とポンと言われると意味がなくなってしまう。会社から一方的に目標を伝えられ、評価されるだけでは、社員は納得できずエンゲージメントは高くなりません。

例えば、コンピテンシー評価で、求められることや進む方向とステップが明確になるというのは、自分の位置がまずわかることに繋がっています。今どこにいるのか、どれだけできているのか、できていないのか。現在の位置とこれからのベクトルがわかってくると、本人としては成長しやすい。ここにフィードバックが組み合わさることでOKRを活用して自分で目標を設定することが可能になります。出発点はそこだと思います。行き先を決めてあげないと自律的には動けないのです。自律型人材を標榜しても、能力だけではその方向には動き出せないと思います。

椋田:私自身が意識しているのは、その人がやりたいことに必要な能力と、仕事の場での経験を結びつけることです。メンバーが持つキャリアの志向とプロジェクトで成すべきことがどのように関連していて、プロジェクトでの経験が、キャリアの実現にどのように寄与していくのかという過程を共有することを重視しています。

赤羽:やりたいこととうまく繋ぎ合わせるというのは、大事なことですね。私が気をつけているのは、「やりたいこと」が明確に言える人たちは、「やりたいこと」に一直線になってしまって、他のことが「やりたいこと」と繋がっているということに気づけなくなってしまうことです。やりたいことを実現するためには、このステップも大事だよということを伝えられるような人がいる会社であれば、うまくマネジメントできるのではないかと思います。それこそ、パーパスや理念みたいなものに共感するような、どこかちゃんと根っこが繋がっていることが大事になってくると思います。

松丘:「やりたいこと」に関して言うと、例えば大きな会社では最近、ジョブポスティングを行う会社が増えています。ただ、そこで募集があったときに手を挙げたら、必ずそこに行けるかというと、そうではないですよね。行きたい人が何人かいたら競争になります。やりたいことに手を挙げるというのは大事なのだけれど、やりたいことが必ず叶うかどうかはわからない。希望が叶わなかった社員に対して、なぜなのかというフィードバックがあることが大事です。どういう経験やどういうコンピテンシーが身に付けば、今後募集があったときに配属できるといったことですね。そういったコンシェルジュ的な仕組みを作ることは大事だと思います。

ー 最後に一言ずつお願いします

赤羽:弊社は、これまで新卒採用を中心に未経験者を人事コンサルタントへと育成してきました。動画コンテンツの拡充や、コンテンツの学習順など細かく型化しています。人口動向の変化を見据えると、企業は今後、年齢に関係なく未経験者を採用していくことが想定されますので、どんな人材であれ、育成の仕組みを準備して取り組んでいくことが求められるようになると感じています。

松丘:マニュアル作成や仕組み化などを通じた暗黙知の言語化は、ますます必要となっていきます。これまで日本企業は、配置転換などを通じて、未経験者の戦力化を実現してきましたが、現状は変化し、個人の意向や志向を尊重する時代になってきています。企業の成長とともに個人の成長を実現するためには、企業が提供する価値や果たす社会的意義に個人が共感することが重要になると思います。

椋田:社員が仕事を楽しくできるように仕事をデザインしていくことが求められてくると考えています。楽しさに繋がると考えられるものには、明文化されたスキル・キャリアデザイン、仕事のデザイン、企業の社会における意義・価値提供モデルなど、いろいろとありそうです。現行の人材マネジメントプロセスを社員目線でとらえなおしてみると良いかもしれませんね。この鼎談で得られた気づきを活かします。本日はありがとうございました。

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Skylight Consulting Inc.

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