ーグループの中で「英治出版」という個性が輝く
羽物:最初に事業承継の話を聞いた時には、自分の名前を冠した会社だし、英治出版というのはブランドにもなっているのだから、もう少しやればいいのに、と思いました。
原田:企画など英治出版を運営する上での基本的な業務は、どんどん手放してきていたわけで、そうすると、英治出版を新しい方向に向かせるような一つの刺激になるというのが自分の仕事になっていくのですが、2017年に島根県の島・海士町に親子で留学して東京のオフィスを離れてみたというのが、大きなきっかけにもなっているかもしれません。
島に住んでみて思ったのは、大切にして残したいものは、ある種のパワーが無いと、残れないよねということでした。これからの世の中で英治出版を大切なものとして残したいとしたら、自分がリードしていたらまず無理だなと思い……正直なことを言えば、新しい経営陣の高野くん、藤竹くんたちでも遅いんじゃないかとは思っています。次はデジタルネイティブの人たちが経営していかなきゃいけない時代なんだと。ただ、一足飛びに行けないから、とにかく僕は早く譲らないと、という気持ちにどんどんなっていきました。
今回グループに入ったカヤックという会社が面白いのは、彼らの「ちいき資本主義(まちづくり)事業※」にも書いてあるのですが、「その土地の多様性を活かしてその土地が輝くことがいい」という考えです。上場企業にはPBRやPERというランキング指標がありますが、カヤックが狙っているのは「面白ランキング」で、株主総会を鎌倉の建長寺でやったりだとか、株式市場の中でもそういった違った輝き方が増えたら面白いよねと思っていることが面白い。
※ https://www.kayac.com/service/rc
だから、独立した一企業という形ではなく、多様性をもってクリエイティビティが発揮される環境をつくっているグループの中で「英治出版」という個性が輝くような存在となることに、英治出版が安定的に発展する可能性を感じたんです。
スカイライトとは資本の関係は無くなったけれど、今後も期待しているのは、カヤックが僕にとっては新しい強い仲間になっていくので、さらに、ここにスカイライトとのシナジーが生まれるんだったら一番いいし、僕がカヤックの事業を支援する中で、スカイライトのリソースに頼ることもあるだろうし、お互いに意識的に繋げていくという意味で、資本とか業務とかの戦略的な提携というより、まず仲間同士で活用しあって、ということを続けられたらいいなと思います。
羽物:たとえばスカイライトは現在、日本ブラインドサッカー協会と一緒に仕事をしています。先週は、マドリードで視覚障害者のグローバル・リーダーシップ・キャンプをやってきました。事前に選ばれた視覚障害のある人が「解決したいこととそのアイデア」を持ち寄り、そこにメンターとして、弊社や大企業、ベンチャー企業の人が集まった。こういった形の協働には、今後もソーシャルイノベーションの分野に強い英治出版にも関わってもらえたらと思います。
原田:そういう案件が始まれば、アショカ(米ワシントンに本部を構え世界90カ国以上で活動する世界最大の社会起業家グローバルネットワーク)と繋げたり、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(視覚障害者の案内により、完全に光を遮断した“純度100%の暗闇”の中で、視覚以外の様々な感覚やコミュニケーションを楽しむソーシャル・エンターテイメントを行う一般社団法人)と一緒に企画したりというのが考えられますね。
羽物:そうなっていくといいなと思います。
原田:クリエイティビティが発揮されるのは、そういう個人と個人が持っている情報です。企業同士の強い繋がりが無いと実現力は低くなるけれど、その強い繋がりの中に弱い繋がりを入れ込まないとクリエイティビティの出現確率は上がらない。今はコンプライアンスやガバナンスが強く求められることで組織が硬直化していて閉じたものになり、その結果、日本の企業ではクリエイティビティが発揮されづらい状況になっているのを心配していますが、社会問題を解決するようなプロジェクトこそ、関心を持った仲間同士の繋がりが何よりの成功の秘訣だと思っています。