体験と観戦という認知機会を通じて、ブラインドサッカーの価値を伝えていくことが、社会を変えることにつながっていく

INTERVIEW

NPO法人日本ブラインドサッカー協会の専務理事兼事務局長松崎英吾氏をお招きし、協会の活動や今後目指されている組織などについて、同協会の支援プロジェクトを担当する弊社マネジャーの井川朋久がお話をうかがいました。
(写真左から、松崎英吾氏、井川朋久)

松崎 英吾氏
NPO法人日本ブラインドサッカー協会
専務理事 兼 事務局長

千葉県松戸市出身。国際基督教大学卒。IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)理事、一般財団法人International Blind Football Foundation代表理事。
「ブラインドサッカーを通じて社会を変えたい」との想いから、日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)の事務局長に就任。『サッカーで混ざる』をビジョンに掲げる。また、スポーツに関わる障がい者が社会で力を発揮できていない現状に疑問を抱き、障がい者雇用についても啓発を続けており、サスティナビリティがあり、事業型で非営利という新しい形のスポーツ組織を目指す。

井川 朋久
スカイライト コンサルティング株式会社
スポーツビジネスコンサルティンググループ
マネジャー

大学卒業後、大手シンクタンクに入社。製造業を中心にシステムエンジニアとして従事。スカイライトコンサルティング参画後は、ITを中心とした戦略立案、プロジェクトマネジメントに携わる。現在はプロスポーツチームやスポーツ団体、スポンサー企業を支援するコンサルティンググループに所属。学生時代はサッカーのGKとしてプレーし、全国大会を経験。週末は小学生へのフットサル普及活動に励む。


ーまず初めに日本ブラインドサッカー協会(以下、JBFA)の概要について教えていただけますか

ブラインドサッカー(男子・女子)と、ロービジョンフットサル(弱視の方による競技)という、2つのスポーツを統括する競技団体です。競技団体というのは、1つのスポーツに対して、1つの国に1つの団体が統括することでアスリートたちに不都合が起こらないように設計されていて、日本サッカー協会や日本バレーボール協会のように、ブラインドサッカーを統括している団体になります。

事業としては、まずは「競技力の向上」です。4年から8年をかけたスコープで強化活動を定義し、指導者の育成、代表選手の強化、次世代育成を専用のトレーニングセンター「MARUI ブラサカ!パーク」で行っています。男子はパラリンピックで優勝すること、女子は世界選手権で優勝すること、ロービジョンフットサルは世界選手権で勝率を高めていくことが目標です。

もう1つの柱は、私たちの一番のステークホルダーである視覚障がい者が、日常で困っていることの解消や、社会で活躍しにくい構造の変化に寄与するため、協会のビジョンとして『ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること』を掲げ、これを追求しています。

具体的には健常者への働きかけです。障がいというのは健常者からの見方の問題で、社会がどういう眼差しで、目の見えない人、見えにくい人と接していくかという問題と言えます。スポーツの強みを活かした「体験学習」を通して、コミュニケーション能力の開発や信頼性構築の研修として提供しながら障がいを理解する、D&I(Diversity & Inclusion)活動を社会人や子どもたちに対して行っています。

提供:鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会

ー JBFAは、設立20周年を迎えられました。そもそも、松崎さんのブラインドサッカーとの出会いはいつだったのでしょうか?

大学3年生に遡ります。当時、「世の中に眠っている問題を世にちゃんと出していく」仕事をしたく、記者を目指して、インターンシップをしていました。たまたま日本に入ってきたばかりの「視覚障害者サッカー」の取材提案をしたところ、「見たことがあるのか」と言われ、自腹で、代表の活動場所だった奈良県に取材に向かいました。

当時の私が、視覚障がい者や障がい者に対して興味・関心があったかというと、むしろ、あまり接点を持たずに生きていきたいと無意識に思っていました。

奈良の合宿会場で、練習が始まる前に「松崎くん初めてだよね」と選手からアイマスクを渡されて、パス回しをしたんですね。自分も、相手も、見えない状態で、音の鳴るボールを頼りに「こっち、こっち!」と言われて、蹴るわけです。蹴るときには相手が僕の声を必要としていて、当時、みんなへたっぴだったんですけど、なんとかボールをつないでいく。目を開けていたら、なんてことはないパス回しに、こんなにコミュニケーションが必要になるんだと、信頼が必要になるんだと感じた数十分間でした。

僕からすると、見えないのにピッチの中でチャレンジしていること自体がすごいなと思えました。僕が「助けなきゃ」ではなく、ピッチの中では、フラットな関係が築けることが、何よりも目から鱗で、自分の価値観が洗い流された、ひっくり返った瞬間がまさにそのパス回しだったのかなと思います。しかし、一旦ピッチの外に出るとそうではなく、不公平が存在しているという違和感は、その後の活動につながっていると思います。当時はまだ「障害の社会モデル(「障がい」は社会(モノ、環境、人的環境等)と個人の心身機能の障がいがあいまってつくりだされているものであり、その障壁を取り除くのは社会の責務であるとし、社会全体の問題として捉える考え方)」という言葉すら知らなかったですけれど、当事者たちと議論を重ねていきました。

ー国内の大会では、日本独自のルールでGK以外にも健常者をメンバーに入れるようになっていますね

最初は、メンバーの不足が理由です。今でも「混ざり合う社会」を追求するために、競技会によって人数は異なりますが健常者がプレーできるようにしています。これは世界でも珍しいことです。今では海外からも賛同する声が上がっています。

人生のすったもんだが凝縮しているのがスポーツですが、ピッチでうまくいかないことがあって人のせいにしてしまい、それで口論になって、でもオレら仲間だったぜみたいな、分かりやすいシンプルなストーリーがたくさん生まれるわけです。青春をしたいわけじゃなくて、勝手に青春になっていく。障がいがあってもこういう世界観がいいよねというのが競技の周辺で話されていくことを考えると、健常者をもっと巻き込んでいかないといけないと考えています。

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