ー 2006年11月にアルゼンチンで開催された世界選手権は、日本のメディアにも取り上げられました。ただし、その取り上げられ方は松崎さんたちの意図とは違ったとうかがっています

前年のアジア選手権で優勝したことで、国際的な大舞台が降ってきました。南米への渡航費用は自己負担では賄えず、お金が出せなくて出場できない選手が現れました。

それを知った通信社の方が、依頼もしていないのに募金を募ってくださり、朝・夕のニュース番組で取り上げられ、『24時間テレビ』にも生出演し、協会の口座にどんどん寄付がされていきました。ただ、その報道のほとんどが「かわいそうな障がい者が世界に向けて頑張るのにお金が足りないから応援してください」というメッセージだったんですよ。また、肝心の試合の結果は全然注目を集めなかったという事実もありました。

ピッチの中でプレーする選手たちの姿というのは、むしろ、観る人に勇気を与えるもので、かわいそうとは相反するものでした。これをきっかけに、自分たちの考えているこのスポーツの持つ価値をきちんと伝え、お涙ちょうだいではなく、事業として展開していくべきだ、という考えが協会として芽生えました。そのためには、国際大会を日本で開催して多くの人にスポーツとして観てもらう機会を作らなければいけないと強く感じました。

ブランドサッカーが誰の何の価値になるのか、ということが当時はまったく言語化できていなかったんですね。携わっている私たちからすると、特徴的な価値は感じていました。「アイマスクをして一緒にパスを回すだけで、自分の心に苔のようにこびりついていた価値観がガラリと崩れ落ちたり、変わったりすることが分かる」。目をつむるとできないことをたくさん感じるし、怖いし、不安なんですね。でも、味方の声に支えられたり、ちょっとしたトレーニングで自分が動けるようになったり、仲間との関係の中で「できること」が積み上がっていくんですよね。これとシンクロする形でビジョンを掲げ、「体験型ダイバーシティ教育プログラム(スポ育)」の活動につなげていきました。

ー「スポ育」や個人参加型体験プログラム「OFF T!ME」という事業をゼロから作っていく上で、特に苦労された点はどういったことでしたか

提供価値を言語化して、さらにプログラムとして形にするところにやはり苦労がありました。また、我々自身が「ブラインドサッカー大好き」というのを消すようにしました。「好き」や、「とにかくすごい」を押し付けるのではなく、価値を因数分解して、企業の方や学校の先生たちに言葉で伝えていきました。

たとえば、小学生でいうと、以下のように言語化しました。
●スポ育が提供できる6つの学びとは……
 ①障がい者への理解促進
 ②個性の尊重
 ③チームワークの大切さ
 ④コミュニケーションの重要性
 ⑤チャレンジ精神の醸成
 ⑥ボランティア精神の育成

私たちが客観的に語れるようになったことで、今まで相対していた人たちが、テーブルのこちら側に来て一緒にブラインドサッカーを広めてくれる人に変わっていきました。「OFF T!ME」では2回目には会社の同僚を連れてきてくれたり、会社から協会へのサポートを上司に掛け合ってくれたり、人や、ときにはお金や物であったりで返ってくるというサイクルが回り始めました。

提供:鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会

ー 2014年に大会観戦の有料化を始められました

観戦の有料化は、様々な効果を生みだせる、レバレッジの強い施策だったと思っています。
競技力向上という点では、選手たちのプレー自体も問われることになり、マインドや発言が変わっていきました。
メディアとよりよい関係を築いていくということにつなげていくためにも国内の大会は重要な位置づけでした。

有料化以前は、当日蓋を開けてみるまで“何人観に来るか分からない”。 100人、200人かもしれないけれど、アーティストが応援に来てSNSで広がれば、何千人に増えるかもしれない。それでは安全管理の体制も、提供すべきサービス設計も整えられません。

当然ですが、有料化によって収入も見込めて、収支も計算しやすくなりましたし、たとえば「19時の日本戦の枠に注力しよう」という意思決定もできるようになり、目標管理をもって計画・運営ができるようになりました。

当初は近い距離の人たちからも「障がい者スポーツを有料化することはあり得ない!」という反応がありました。それでも、当時の社会からの見られ方から脱していくことにつながると信じていたので、関わっていた協会のメンバーは強く反骨心を持って進めていきました。私たちはブラサカに魅力を感じて会社を辞め、飛び込んできたわけですから。

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