組織と人の進化 /田頭 篤

COLUMN

スカイライト コンサルティングのスローガンの1つ、EVOLVE。この一語には、組織や人がそれぞれの理想の未来に向かって新しいステージへと進化していくことに尽力したい、という思いを込めています。
ここ数年で、新しいステージへと進化した組織を世界中で見かけるようになりました。
そんな組織の進化を「協働のカタチ」という観点から見ていきたいと思います。

自然な美しさ、メカニカルな美しさ

「本日はイベントに参加頂きありがとうございました。最後にみなさんにお願いです。これからこの会場を元に戻しますので、お時間ある方はお手伝い頂けると幸いです」。とあるNPO法人のイベント終了時、主催者が100名を超す参加者に声をかけた。おもむろに参加者が動き出す。椅子を並べ始める人、倉庫にしまってある机を出し始める人、壁の掲示物をはがし始める人。私も机の運び出しを手伝う。誰が指示するわけでもなく、それぞれが声をかけあい確認しながら数分で会場は元に戻った。このNPO法人では見慣れた光景だが、「会場を元に戻す」ことに向けてそれぞれが自発的に動いて協働する様がなんとも美しい、と自分でも机を運びながら思う。

「あんな鉄の塊が浮くなんて信じられない」と飛行機を目にする度に言っていたのは既に他界した私の母だ。ここ数年、タイに出張することが増えた私は、飛行機が離陸する瞬間のあの「フワッ」とした感覚を味わう度に母の言葉を思い出す。確かに私自身いまだに信じられない。とはいえ、この信じられないことを信じているのは、それを演出している多くの方々とそれを束ねる組織があるからだ。搭乗口には搭乗をサポートするスタッフがいて、駐機してある飛行機のまわりには荷物を積むスタッフがいて、飛行機をプッシュバックするスタッフがいて……。目に見えるだけでも数十人が携わっている。必要な人が一人も欠けず定刻通りに「フワッと浮かす」ことに向けてスタッフが動いていく美しさがある。協業に向けて高度に分業化された仕組み、いわゆる「組織」がなせる業だ。

前者は自然な美しさであり、後者はメカニカルな美しさだ。両者はなかなか相容れない。

定刻通り安全に飛行機が飛ぶのも、指定した時間に荷物が届くのも、企業が後者のメカニカルな美しさを持つが故だ。消費者たる我々はその恩恵を十分に受け、そして今日もこの“予定通り”“いつもと同じ”を求めている。私たちが求め続ける限り、企業はメカニカルな美しさを持ち続けるに違いない。
一方、最近では、私たちは企業の働き手として、そして、企業の担い手として前者の自然な美しさを求めることが多くなってきた。そこには、様々な理由があるのだろう。

そんな中で、自然な美しさとメカニカルな美しさをうまく両立させようとする新たな「協働のカタチ」が世界中、もちろん日本でも生まれつつある。

新たな協働のカタチ

オランダのアムステルダムから車で2時間余り、アルメロという場所に「ビュートゾルフ」という訪問看護の企業がある。2018年5月、縁あって訪れた。訪問看護の企業としてはオランダでシェアはトップ。擁する看護師は1万人を超え、なおも増え続けている。その組織運営方法はユニークで、いわゆるCEOをトップとしたヒエラルキーを持たない。看護師12人で1つのチームを組み、チーム毎に特定エリアの看護を担う方法をとっている。このチームは基本的に全てを自分たちで決める権限を持って看護サービスの提供に取り組んでいる。各チームが自主的に運営しているが故にバックオフィス(いわゆる事務方)の人数は少なく全体の1%に満たない。

ビュートゾルフが登場する以前には、比較的大規模な看護サービスの会社がいくつもあった。但し、大規模故に効率を求め、患者に対するサービスが画一化し、患者にとって十分なサービスが受けられない一方、サービスを提供する看護師の側にも個々の患者に合ったきめ細かいサービスができないというジレンマがあった。それに対しビュートゾルフでは、看護師が自ら提供するサービス内容を患者ごとにきめ細やかに自ら決めていくことによって、患者・看護師双方が満足のいく看護サービスを提供できているそうだ。ファウンダーのヨス・デ・ブロック氏に言わせれば、それを目指して作った会社であり、そのために必要な組織体系にしたということだから、彼にとっては当然の帰結だろう。

このビュートゾルフは2014年に出版された『ReinventingOrganizations』(邦訳『ティール組織』英治出版刊)という本の中で紹介され反響を呼んだ。「組織の再発明」という原題のとおり、既存のパラダイムであるヒエラルキー型の組織ではない形態を持つ組織が世界中で再発明されている(生まれている)という本である。

手前味噌ではあるが、弊社スカイライトもヒエラルキー型の組織ではない、少し特徴的な組織運営方法を持っている。もう私の友人の間では夏の風物詩となっているが、暑がりである私は夏の間、会社でも半ズボンで過ごしている。弊社には服装の規定はない。自由である。さすがに、お客様先へお伺いする際には半ズボンでは行かないが、かといって「お客様先へ伺う際には配慮せよ」という規定があるわけではない。お客様との関係や一般的な常識にあてはめて半ズボンでは行かないと自分で判断しているまでである。服装に限らず、就業時間、就業場所など相当自由であり、また、ヒエラルキーな構造はほぼ持たない。併せて、やりたいことはやりたいようにやらせてくれる会社でもあり、その結果として、リピート率8割を超える良質なサービスをお客様に提供できていると自負している。とはいえ、前出のヨス・デ・ブロック氏同様、弊社の経営陣からすればある意味当然の帰結だろう。そもそも、それぞれ個としてのコンサルタントが輝きながらお客様に良質のコンサルティングサービスを提供するためにはどのような組織運営方法がよいか?を考えて組織を作ったからだ。

前出の『ティール組織』で紹介されている企業の1つに、HolacracyOneがある。同社のファウンダーであるブライアン・ロバートソン氏が考え出し実際に同社で実践している組織運営方法をHolacracy®(ホラクラシー)と呼ぶ。恐らく新たな協働のカタチとして体系的に作り上げられているものは他にない。一言で説明するのは難しいのだが、個々人の自発性と組織のなすべきことをうまく調和して実現させる仕組みである。このホラクラシーを使って組織運営している企業は全世界で2000社にのぼるそうだ。

2019年3月、同社が主催するHolacracy Practitioner Training に参加した。ホラクラシーを実施しようとしている人、実践している人向けにホラクラシーを体験しつつ理解を深めるための4~5日間のトレーニングだ。このトレーニングを通じて分かったことが1つある。これは私の勘違いだったのだが、個々人の自発性に注目して作り上げた組織運営方法ではなかった。どちらかといえば、個々人の日々の生産性を高めることを意図して必要な仕組みとして考えられたのがホラクラシーだった。個々人が集中して仕事に取り組むために、それを阻害するものを1つ1つ仕組みとしてカバーする(仕組みとしてその阻害要因を取り除く)というものであった。

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Skylight Consulting Inc.

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