東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社様は、2015年4月1日に、東京ガスグループの2社――東京ガス・エンジニアリング株式会社(以下、TGE)と株式会社エネルギーアドバンス(以下、ENAC)――が統合されて生まれた企業です。同社の執行役員 齋藤寛様に、業務・システム統合で苦労されたことや、事業で目指されていることなどについて、スカイライト コンサルティング取締役 平原裕一がお話を伺いました。
(2019年9月19日に取材を行いました)
東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
「誰もできない、に挑む。」をコーポレートメッセージとし、エネルギーを「作る」「送る」「使う」を、ユーザーとして長年培ってきた独自のエンジニアリング&ソリューションを通じて、ワンストップで提供している
組織統合に伴うシステムの統合プロジェクト
平原:まずはじめに、会社統合の狙いはどういったところにありますか。
齋藤:エネルギーインフラ建設・維持管理等のエンジニアリング事業を行うTGEと、主にエネルギーサービス事業・地域熱供給事業等を行うENACの2社を統合しました。LNGプラントやパイプライン、オンサイトエネルギーサービス、地域冷暖房などの現場で自らユーザーとして積み重ねてきた「ユーザーズ・ノウハウ」をベースに、エネルギーを「作る」「送る」「使う」すべての場所で、「エンジニアリングソリューション」をお客さまにワンストップで提供していくことが目的です。
平原:齋藤様はIT部門を管轄していらっしゃいます。この度の統合に伴うシステム統合プロジェクトにおいて、苦労されたことなどがあれば教えていただきたいです。
齋藤:2015年に全てを統合したわけではなく、最初に事務所を統合し、次に組織を統合し、最後の仕上げとして業務プロセスと情報システムを統合するというのが今回のプロジェクトでした。苦労した点は沢山ありますが、やはり業務の統合が大変でした。同じ東京ガスグループでも2社それぞれの歴史があり、具体的な仕事のやり方のレベルでは、なかなか統合が進みませんでした。ものの見方や何を大事にするかといったところまで戻って議論を繰り返し、そのうえで業務やプロセスを標準化・統合し、情報システムに反映していくというのが今回のプロジェクトでした。
平原:1社はエンジニアリング、もう1社はサービスを提供する事業なので、業務の性質や文化なども違うということがきっとありますね。
齋藤:お客さま向けにモノを作る立場と、お客さまにエネルギーをサービスとしてご提供する立場では考え方が異なる点もありますが、技術を駆使してお客さまに本当に価値のあるものをご提供したいという想いは同じです。苦労はしましたが、揃えるところは揃え、それぞれの特色・強みを活かすところはそのまま残しながら、新たな事業の展開も見据えて業務プロセスの統合を行いました。
平原:「全社業務の標準化、及び基幹業務統合システム導入プロジェクト」では弊社も数年にわたり、関わらせていただきました。働きや成果はどうだったでしょうか。
齋藤:システムが稼働してプロジェクトからスカイライトさんが離れる段階で、社内から「いなくなってしまって本当に大丈夫?」という声が多く聞かれました。「僕らを信用してないのか」と言いたいところですが、それぐらい御社の存在は大きかったということです。今回PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)をご担当いただいたのですが、時として嫌われ役に徹して厳しいことを言っていただくなど、複数社で構成される今回のプロジェクトをまとめるのに大きな機能を果たしていただきました。さらにPMOの役割にとどまることなく業務検討にも深く入り込み、一緒になって当社社員以上に真剣にご検討いただき、本当に助かりました。
平原:ありがとうございます。システム統合プロジェクトは一旦完了しましたが、実際、使ってみていかがでしょうか。
齋藤:おかげ様でシステムを止めるような大きな不具合はなく、順調に稼働しています。ただ、往々にしてシステムを「作ること」に目を奪われがちですが、そもそもの目的は「使うこと」であり、これからは、手に入れた新しい道具を使い倒すことが重要と考えています。今回のプロジェクトの成果として、当社の事業・業務を1つのモノサシで評価できるようになりました。システムに蓄積されたデータを活用して、事業・案件ごとの収益性・リスクを定量的に把握・分析し、事業やプロセスを磨き上げ、厳しさを増す競争に勝ち抜いていくための大きな武器として活用していきたいと思っています。
「まさに昔からやってきたことなんです」
平原:最近は、電気やガス、ガソリンや通信など、いろいろな生活インフラがまとめられて販売されるようになってきました。消費者としてはガス会社とか電気会社とか個別には考えずに、生活インフラベンダーさんというふうに捉えて、さてどこを選択しようかと考える流れになっていますね。
齋藤:そうですね。「as a service」というモデルが話題になっていますが、当社のエネルギーサービスという領域は、まさにそれを昔からやってきたんじゃないかと考えています。
平原:なるほど。
齋藤:お客さまの目的は、ガスを買う・電気を買う・ボイラーを運転して水蒸気や温水を作るといったことではなく、熱や電気などのエネルギーを快適に省エネ・省コストで使いたいということ。それに合致するエネルギーシステムやサービスを提供するのが、われわれが今までやってきたエネルギーサービスだと思っています。
平原:お客さまのニーズに合った最適なエネルギー環境をサービスとして提供しているということなんですね。
さて、少し話は変わりますが、最近台風による大規模な停電など想定外の被害が発生しています。
今回に限らず、災害やテロのニュースが増え、最近では日本でもそれらによる事業継続の危機を意識、心配されて相談されるお客さま企業が増えています。この変化についてはどうお考えでしょうか。
齋藤:われわれが提供している「分散型エネルギー」に1つの答えがあると思っています。
実際、工場にコージェネレーションシステム*が導入されていたために、停電時にシステムから電気を確保して、工場の設備を一部動かし、緊急対応ができたというお客さまもいらっしゃいます。ガスが止まらなかったので、拠点単位では耐災害性に優れていたということです。
*コージェネレーションシステムとは、熱源より電力と熱を生産し供給するシステムのこと
平原:ビル単体だけじゃなくて、地域へのエネルギー供給とかそういったものですよね。
齋藤:そうですね。新宿新都心が代表的ですが、当社では地域に対してエネルギーを供給する「地域冷暖房」を40年以上行っており、地震等の災害時にもエネルギー供給に支障がないようにエリア全体をコントロールしています。また最近では「スマートエネルギーネットワーク」といってICTを活用し、地域のエネルギー需給を自動制御することでより高いレベルのエネルギーセキュリティ向上を図っています。建物単体ではなく街や地域全体のエネルギーをマネジメントすることで、セキュリティのみならず、さらなる省エネ・省コストを実現しています。
平原:なるほど、エネルギーの面的利用ですね。他にもこうしたICTを導入した事例はあるのでしょうか。
齋藤:そうですね。当社のソリューションの1つに「Helionet Advance(ヘリオネットアドバンス)」という遠隔自動制御システムがあります。従来はお客さまのエネルギー設備を遠隔で監視して故障対応や運用支援などを行ってきましたが、この「Helionet Advance」はそれに加えて自動制御による最適運用ができる仕組みです。具体的には、過去の需要実績や気象予報等から建物のエネルギー需要を予測し、その結果に基づいて設備の最適な運用を行います。今まで人が経験則で行っていたことを自動制御することで年間約1割もの省エネ・省コストを実現することができます。将来的には、この「Helionet Advance」を使って、複数のエネルギー設備を束ねた運用や相互融通を行うなど、さらなる付加価値をつけた運用を考えています。
平原:群でエネルギーを融通しあうということですか。
齋藤:そうです。お客さまごとに設置された発電機を、個としてではなく群として制御します。お客さまごとにエネルギーの使い方や時間のピークなども違うので群で制御できるメリットは大きいです。エネルギーを融通しあって、補完しあうということができるので、コストだけではなく、省エネ・省CO²に貢献していくことができます。
平原:たしかに、災害時だけでなく、日常でもエネルギーを融通し合えることのメリットは大きいですね。御社は首都圏での事業活動が多いと思いますが、このようなサービスは地方でも受けられるんですか。
齋藤:もちろんです。ネットワークでつながっていれば良いので、全国のお客さまにお使いいただけます。既に首都圏外の病院での導入事例もあり、省エネ・省コストで、なおかつ災害時のBCP対応にも貢献できるということでご評価いただいております。
平原:未来を感じる、すごく可能性のある話ですね。
齋藤:僕は、大学では通信が専門で、就職した時にも周囲から「なぜガス会社?」と言われましたし、インターネットが普及しはじめた時にも「ガスはインターネットで送れないし」と思っていたんですけどね。今となっては、会社のメインのソリューションを通信・ICTが支えているっていうのは感慨深く、今後さらに磨き上げていきたいと思います。
平原:ガスだけでなく、インターネットをはじめとする他のインフラと統合して更に高度な社会インフラとして発展させようと考えられているのですね。将来どんなサービスで私たちの生活を便利に快適にしてくれるのか楽しみです。今回のプロジェクトが始まる前に私が弊社の社員に話したんですけれど、人間ってエネルギーの奪い合いで古くからずっと戦争をしてきたんですよね。エネルギーの安定供給は平和の大前提ということ。インフラを支えている企業さんを支援するということは世界平和にも貢献できるということだと話しました。今の日本がこれだけ平和でいられるのも、エネルギーの安定供給に尽力されている企業あってのことだと思っていますので。
齋藤:ありがとうございます。
現在当社がお客さまとつながっていられるのも、東京ガスグループがこれまでの事業を通じて、お客さまや社会から信頼を得てきたからこそだと思います。この先も、我々の持つ技術力やお客さまからの信頼にこだわりながら、お客さまにとって本当に価値のあるものを追求していきたいと思っています。