<事例紹介>

コロナ禍でのグループ全社ERPシステム移行。リモートで移行はできたのか?

関連会社10社を含むグループ全体を新しいERPシステムに移行するプロジェクトが2020年4月に山場を迎えた。人事・経理のデータを移行し、4月中に業務移行を完了させる。クライアントは決算処理を行いながら、移行を進めなければならない。グループ全体の年商は約500億円、関連会社の事業は多岐に亘るため、各社の個別対応が必要となる。

クライアントとスカイライトとで、長い時間をかけて準備をしてきたプロジェクトだ。だが、実際の移行にはさまざまな問題が発生するのが常である。データの不整合、想定外の取引、インターフェースの不具合、担当者間の認識違いなど、いくらでもありうる。限られた時間の中で新システムでの業務をスタートさせるには、発生した問題への対応を即時に決め、解決していかなければならない。そのためには、通常はなるべく一つの場所に集まって作業を進め、密なコミュニケーションを取ることで対応していく。

ところが、新型コロナウイルスの感染が拡大した。3月26日には特措法に基づく対策本部が設置され、緊急事態宣言が発出される準備が整い、4月7日に発出された。

スカイライトの担当コンサルタントMは、「リモートワークで移行できる」と3月半ばから考えていた。もともと関連会社10社は一つの場所にあるわけではない。都内の別の場所の会社もあれば、地方拠点もある。1か所に全員集まって移行することは不可能で、何社かはどうしてもリモートでの対応になる。それなら各社別の場所でも可能ではないか? そんな考えだった。

はたして、緊急事態宣言直後から、クライアントとスカイライトで作る移行チームは全員在宅勤務になった。経理等の各社担当者は決算終了までは出社していたがその後は順に在宅に。その状況下でデータ移行・業務移行を進めることになった。

ここでMは「バーチャル移行部屋を常時開設」という、リモートで移行を行うための目玉の対策をスタートさせた。クライアントは以前からMicrosoftのTeamsを導入済みで、地方拠点との打合せには使っていた。そのTeams上に「バーチャル移行部屋」を営業時間中、常時オープンとした。各担当者は何かあれば、「バーチャル移行部屋」にアクセスして会話すれば良い。システムベンダーの担当者もすぐにアクセスできる。バーチャルなので実際の移動は無く、リンクをクリックするだけだ。もし「バーチャル移行部屋」をのぞいてみて他の会社が会話中なら、また後にアクセスすれば良い。

通常だと「物理的な移行部屋」を用意することも多いが、移動時間が発生する。行ってみたら話したい相手が他の人の対応をしていて出直さざるを得ないこともある。その場合は、部屋との移動時間は無駄になってしまう。バーチャル移行部屋だとそういう無駄は発生しない。データ移行中の問題だと、画面を見ながら話をする必要もある。物理的な移行部屋だと担当者に来てもらって画面を立ち上げて、確認してといった手順が必要だが、バーチャル移行部屋だと即時に画面共有をすれば良い。

課題の可視化も進めた。移行チーム内で朝会と夕会を行って状況の確認や残課題の共有を行うのはもちろんのこと、プロジェクト管理ツールのBacklogを導入していたので、どの課題が誰の宿題になっているかがすぐにわかるようになっていた。10社ほどの移行となると、課題管理だけでも大変なものだが、ツールを使いこなすことでかなりスムーズに進められた。

とはいえ、各社で発生する課題はさまざまで、進捗もばらつく。移行チームでは適宜フォローできるように分担を決め、いわゆる「落ちこぼれる」会社が発生しないように気を配った。

結果として、データ移行は予定どおり完了した。業務も予定通り切り替えられ、4月の月次処理もスムーズに行うことができた。

Mは「逆にリモートじゃなければ、この社数の移行をこの体制・この期間でやるのは不可能だったのではないか」と言う。1クリックでコミュニケーションができるリモートならではの効率の良さがあることに加え、「リモートだから集中できた」のが大きな要因だったと、Mは考えている。

出社しての勤務だと、「ちょっと良いですか?」と割り込みが入ることがある。その場合、本来は後回しで良いことも、先に対応してしまうことがある。自分自身もそうだし、他のメンバーもそうなる。一方でリモートだと、Web会議(この場合はバーチャル移行部屋)かチャットでのコミュニケーションの内容に「集中して」対応することになり、優先度の低い内容の割り込みが少なくなる。

今回のプロジェクトでスムーズに進んだ要因には以下のようなことも挙げられる。

一つは、各担当者と移行チームとの間で人間関係がある程度できていたことだ。長いプロジェクトの途中でプロトタイピングや移行リハーサルなどを通じて、一緒のプロジェクト作業をしていた。クライアント各担当者もある程度プロジェクト型の仕事の進め方に慣れてきていたことに加え、話ができる人間関係ができていたと思われる。

もう一つは、環境面、特に通信環境に問題が無かったことだ。バーチャル移行部屋を常時開設するには、メンバーが常時接続していなければならない。自宅が光回線になっているなど、環境面が整っていなければこの策は取れなかった。

「アフターコロナでも移行があったらリモートでやるか?」とMに尋ねたところ、「条件付きで」と即答した。

どういうことか?
Mが強調したのはコミュニケーションの集約だ。一部のメンバーが出社して他はリモートという場合を考えてみよう。出社したメンバー間でのコミュニケーションとデジタル上のコミュニケーションがバラバラに行われてしまうのではないだろうか。その場合メンバー間の情報ギャップが発生し、対応漏れや品質のばらつきも生じ、短期集中で行う移行の障害になりかねない。情報ギャップを埋めようとすると、多大な負荷が生じてしまう。

コミュニケーションを集約するには、関係者全員がリモート環境上、つまりデジタル上でのコミュニケーションとするのが一つのやり方である。今回ご紹介した事例ではそれが実現された。そうでなければこれまで行われてきたように、なるべく一つの場所に集まった方が良い。Mはそう語った。

とはいえ、条件が揃えば「リモートで移行する」のも選択肢になるということだ。これは以前の常識からすれば「とんでもないこと」であったが、今後は有力な選択肢の一つになっていくかもしれない。

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Skylight Consulting Inc.

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