ー JBFAは、資金面では他の中央競技団体(NF)と比較して、強化費の構成比率が低いのが特徴的です
一般的なNFは、国からの助成金である「強化費」への依存が強い傾向にあります。強化費は使途が厳密に決められており、我々が必要と考える活動に必ずしも使えず、強化や我々が掲げる理念の実現を目指せないため、強化費以外で資金を調達していく必要を感じました。「理念を拡げる」と「事業を展開し、資金を獲得する」ということはリンクしています。
我々は、非営利団体ではありますが、規模としては、いわゆる零細企業から中小企業フェーズに入ってきていて、対外的に事業にだけ向き合えばいい時代から、業界内の役割として責任が増してきたというところがあります。いわゆる独占組織だからこそガバナンスも効かせなくては問題が起こってしまう。外部の方の目線も入れながら改善・改革していこうとスカイライトさんにお仕事をお願いしました。
ープロジェクトの概要としては、次世代の経営をどうしていくのか、計画と併せて、人材の育成も進めていくとご依頼いただいています。まず、組織内の30名の方に約1ヶ月をかけてインタビューをして、課題感や未来図をヒアリングさせていただきました。この後、特に中期経営計画を立てる上で、組織内でどういったテーマで検討していくべきかを決めていきます
組織は「30人・50人・100人の壁」と言われますが、それぞれの段階で必要な組織の基盤が違いますよね。20人くらいだった頃は私がリーダーシップを強くとりながら、「来年はこういう年にするよ、ここでお金を得るんだよ、こういう風にお金を使っていくよ」ということでやってこられました。
いつまでも、自分が強いリーダーシップを発揮するということはできると思いますが、組織のありたい姿を掲げたときに、そうやっていてはいけないと我々は考え、Going Concernとして事業継続していくということを決めました。
社会課題がなくなれば解散していい組織なのか、キャリアの一環として3年くらい経験してもらえばいい組織なのか、ここで働くと給与がどれくらい上がる仕組みがあるのか、そのためには真水のお金をどれくらい稼がなくてはいけないかとか、すべてリンクしてくるので、それらをトップだけが知っている組織ではなく、メンバーに可視化されていて、実行できる組織になっていくことが大事だと思ったというところですね。次期層を巻き込んで組織の再成長を描いていきたいというのがありました。
かつては、健常者に競技を体験させることは「障がい者スポーツのNFのやるべき仕事ではない」とされていました。しかし、結果、こんなにも価値の循環が起こることが示せました。コロナ禍になって、我々は福祉事業も始めています。大会の有料化によっても遠い存在の人たちが身近になり、就職希望者も増え、Jリーグのクラブも応援してくれるようになりました。常識の「外」にあったやり方に挑み、「ドメイン×やり方」の掛け算でどう面積を拡げていくかによって、関わってくれる人たちに何を与えられるかが変わっていくんですよね。
価値の流れが、多様で広くて、多角的になっているほど、強い組織、社会的インパクトを与えられる組織になっていけると私は思っています。私たちは儲ければいいわけではなく、人のマインドを変えていき、障がい者スポーツの立ち位置を変えていく使命があります。事業の外にあると私たちが思ってしまっているようなことも含めて、ちゃんと検討していくことが必要だと考えています。
ー 松崎さんのこれまでを振り返ると、最初からリーダーになろうとしていたのではなく、やるべきことを実現しようとする信念に対して、組織の内外に応援する仲間が増えていった、というリーダーシップの形だと感じました
状況やフェーズによってリーダーシップの形は変わっていくものだと、割と早い時期から体感として分かっていました。年に一度、自身の誕生日にパーソナルミッションとパーソナルバリューを見直すことにしています。自分の価値観が変わっていることがその中で分かり、それを投影しているのが私のリーダーシップになっていると思います。
ー 最後に、2024年パリ・パラリンピック出場権を獲得するための戦いについて教えてください
昨年(2022年)11月の「アジア・オセアニア選手権」では優勝を逃し、3位という結果に終わったため、今年8月に英国で開催される世界選手権でパラリンピック出場権を争います。
10年以上前に盲学校の先生たちが指導をしていた時代から、協会としても財源規模の小さかった中でも、できることはすべてやりきる心づもりで強化に臨んできましたが、それでも、2016年のリオ・パラリンピックには出場できませんでした。
そこから2021年まで、それまでのやり方を抜本的に見直し、サッカー界の力を借り、結果、自国開催の東京パラリンピックで、初出場の末、5位となりました。今は、これまでのそれらの潮流をどう融合させていくかということがとても大事な視点です。
世界選手権でパラリンピックの出場権を獲得するのは簡単ではないと思います。コロナ禍で予選のレギュレーションが変わり、ベスト4に残ったとしても出場権を得られない可能性があります(大陸別大会で出場権を確保できていない国のうち、上位3ヶ国が出場権を得るため)。ただ、我々が小学生時代から育ててきたアスリートたちが、ずっと頑張り続けてきた既存の代表メンバーに混ざり、2人、3人と入ってきています。普及活動で出会い、育成で育てるという、この10年のシステムの1つの集大成が見えてきています。ぜひ、若い選手にもご注目いただいて、その背景には協会がそういう育成・強化システムを持っているんだということを知り、応援していただきたいなと思っています。配信の予定等もお知らせしていきますので、当協会のHPもご覧いただければと思います。