「優れた成果をあげるチームとそうでないチームの違いは何か」。2012年から数年間、社内の180ものチームを調査したGoogleは、効果的なチームの条件は、優秀なメンバーがいるかよりもメンバー同士がいかに協力しあうかであり、その最も重要な要素は「心理的安全性(psychological safety)」であると結論付けました。
この概念を1999年に初めて提唱したハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授によれば、心理的安全性とは「率直に発言したり懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを、人々が安心して取れる環境」を意味します。
私たちは何か疑問を口にしたり、他者と違う意見を述べようとしたりするときに、以下の4つの不安を抱え、発言や行動をためらってしまいます。
①無知だと思われる不安⇒不明点があっても質問しない
②無能だと思われる不安⇒ミスを隠す、間違いを認めない
③邪魔をしていると思われる不安⇒自発的に発言しない
④ネガティブだと思われる不安⇒否定的な発言を躊躇する
この4つの不安をメンバーが覚えることのない職場では「どんな内容でも自分の意見が重視されている」と実感できるため、高い目標に向けて健全に意見を戦わせたり、アイデアや情報を共有したり、ミスを報告したりすることが風土として定着し、結果としてチームや組織としての学習能力とパフォーマンスが向上する、と同教授は述べています。またGoogleの調査では「ありのままの自分をチームメンバーが受け入れてくれる」という安心感から離職率が低下することも証明されており、人材不足の中で社員のエンゲージメントを高める上でも心理的安全性は重要です。
しかしながら、このような風土を一朝一夕につくりあげることはできません。組織内の階層や権力格差などが影響して、簡単には変えられない構造的な要因も現実には存在します。『心理的安全性のつくり方』著者の石井遼介氏は、4つの不安が「ない」状態を組織全体で目指すよりも、話しやすさや助け合う習慣など、まず身近なチームにとっての理想的な「ある」状態を設定して、メンバー一人一人が自分の行動を見直すリーダーシップを発揮することが重要であると述べています。
率直な意見を言い合うことは決して〝やさしく快適な〞職場ではなく、むしろ価値観の相違やミスの指摘への不快さをお互いが受け止め合う厳しい環境ともいえます。それでも不確実で変化の激しい時代において組織の創造力を高めイノベーションを起こすためには、多様な観点で率直な対話を重ねながら「健全な衝突」を繰り返すことが不可欠です。心理的安全性を高めることは企業にとって今後ますます重要になっていくでしょう。
<書籍紹介>
『恐れのない組織 ―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』 エイミー・C・エドモンドソン (著) 村瀬俊朗 (解説)、野津智子 (訳) 英治出版 2021年 |
『チームが機能するとはどういうことか ―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』 エイミー・C・エドモンドソン (著) 野津智子 (訳) 英治出版 2014年 |
『心理的安全性のつくりかた ―「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』 石井遼介 (著) 日本能率協会マネジメントセンター 2020年 |