世界の「いま」を読み解く-地政学とエネルギー -

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「世界の重心が、経済的にも地政学的にもインド太平洋地域へと移動している」。

今年9月中旬、EUのボレル外交安全保障上級代表は、EU初となるインド太平洋戦略を発表するなかで、このように発言しました。周辺国との軋轢の中で海洋進出をすすめる中国を念頭に、自由主義陣営は台湾との関係強化を目指すなど、国家間の安全保障と経済連携をめぐる動きが徐々に緊迫度を増しています。

地政学とは、各国が置かれている地理的条件に注目し、歴史的な出来事や国際情勢を分析する学問です。アメリカやイギリスなど、国境の多くが海に面している海洋国家(シーパワー)は、海を通じて世界各地に比較的容易にアクセスできるため、交易などで有利な立場にあります。一方、ロシアや中国など大陸の内陸部に位置する、もしくは国土の一部が海に面していても十分に活用できずに陸上交通を主としてきた国々(ランドパワー)は、より豊かな土地や海洋を求めて、勢力圏を拡大しようとする傾向にあります。

『教養としての「地政学」入門』は、人類が農耕生活へ移行して特定の地域に定住した約1万2千年前から、地政学的な問題が始まったことを指摘しています。「人は引っ越しできても、国は引っ越しできない」が故に、各国は何世紀にもわたって隣人対策や災害対策に知恵を絞り、存亡をかけた攻防を繰り返してきました。そして15世紀の大航海時代以降は、米ソの東西冷戦まで「ランドパワーVSシーパワー」の覇権争いが続きます。近年の米中対立もその大きな流れの延長線上にあり、ファーウェイ問題のようなテクノロジー覇権をめぐる動きも複雑に絡み合っています。

では覇権争いとは最終的に何を意味するのでしょうか。その本質は「生存圏をめぐるエネルギー資源の奪い合い」といっても過言ではありません。食料・生活必需品から電気・通信等の社会インフラに至るまで、私たちの生活と経済活動は全てエネルギー消費に行き着きます。

火の利用による効率的な栄養摂取、農耕、蒸気機関、電気、肥料の発明などの数々のイノベーションを繰り返しながら、人類はエネルギーと共に文明社会を築き上げてきました。「もっとたくさんのエネルギーを」という際限のないエネルギー獲得への欲求が、繁栄をもたらした最大の原動力です。

しかし、そのたびに人口増加と経済成長を加速させた結果、資源枯渇問題や気候変動問題を生み出しました。このままでは持続不可能であり、経済活動と環境保護を両立させるための大きな岐路に立たされています。『エネルギーをめぐる旅』は、こうした人類とエネルギーの歩みを歴史、科学、哲学など様々な分野から考察し、人類社会の目指すべき未来像を提示する画期的な一冊です。

日本も隣国との領土問題や、原油を依存する中東との海上交通路における地政学的リスクをかかえる一方、CO₂排出量削減など、先進国として喫緊に取り組まなければならない問題にも直面しています。もちろん、私たち個人や企業も無縁ではありません。世界の大局を見据え、これまでの常識を超えたビジネスチャンスを見出すことが、日本企業にも求められています。

『教養としての「地政学」入門』
出口治明(著) 日経BP 2021年
『エネルギーをめぐる旅
― 文明の歴史と私たちの未来』 古舘恒介 (著)
英治出版 2021年

Skylight Consulting Inc.

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