米中貿易戦争、イギリスのEU離脱交渉などの地政学的な問題、テクノロジー企業による既存ビジネスの破壊、異常気象と度重なる自然災害……。変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を合わせたVUCAと呼ばれる時代に突入し、これまでの常識やビジネススキルだけでは通用しないといわれるようになりました。しかし目の前の状況に闇雲に対応し続けるだけでは、真の解決にはつながりません。これまでの物事の見方や思考スタイルそのものを一歩引いて俯瞰したうえで、これから起こる変化に応じて使いこなすスキルが今求められています。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』は、実は多くの人が世界を正しく認識することができておらず、本能や様々な認知バイアスによって作りあげられた幻想を抱いていることを指摘しています。私たち人間は狩猟採集生活をしていた時代に獲得した脳の機能から、世界を常にドラマチックに見てしまう傾向にあります。途上国と先進国、といった“世界には大きな分断がある”と錯覚する「分断本能」や、物事のネガティブな面だけを気にして“世界はどんどん悪くなっている”と錯覚する「ネガティブ本能」など、10の本能がもたらす誤解への対策とともに、謙虚さと好奇心をもって事実に向き合う姿勢の大切さを説いています。
一方、『insight ― いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』は、自分の価値観や行動・思考パターン等に対する内的自己認識と、周りが自分をどう見ているかについての外的自己認識を個人や組織のレベルで高めることがますます必要になると述べています。また経験豊富なリーダーほど自身の能力を過剰に見積もる傾向にあり、その立場ゆえに誠実なフィードバックを受けられず自己を正しく認識しづらいことを指摘するなど、組織心理学の観点から人間や組織の内面に鋭く迫っています。
『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』は、ビジネスの世界における論理思考の限界を指摘します。データやロジックに基づいて効率的に市場を攻略する「他人モードの戦略」は今後AIやロボティクスによる代替化が進む一方、イーロン・マスクのように根拠の見えない直感や得体の知れない妄想からパラダイムシフトを牽引する「自分モードの戦略」がより重要となりつつあります。従来の論理思考や近年注目されているデザイン思考に続く新たな思考法として、妄想を駆動力にして世の中を創造する“ビジョン思考”を提唱するとともに、「機械にはできない思考」「最も人間らしい考え方」とは何かを問う一冊です。
私たち人間とはどういう生き物なのか、という視点でも大変示唆に富む3冊です。折しも平成から令和という新しい時代に突入した今こそ、ぜひ腰を据えてご一読ください。
<書籍紹介>
『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』 ハンス・ロスリング ほか (著) 上杉周作/関 美和 (訳) 日経BP社 2019年 |
『insight ― いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』 ターシャ・ユーリック(著) 中竹竜二(監訳) 樋口武志(訳) 英治出版 2019年 |
『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』 佐宗邦威 (著) ダイヤモンド社 2019年 |