DX推進プロジェクトにおけるリーダーシップ

第三の「リーダーシップ」に関しては、DX推進プロジェクトでは「様々なパートナーシップ、コラボレーションが不可欠」という視点から考えてみたい。この視点で今後最も重要になるのは、プロジェクト内外の利害関係者に対するマネジメント、つまり「ステークホルダー」に対するマネジメントではないかと思う。

DX推進プロジェクトでは、その成果が自社ビジネスモデルの変革を促し、企業全体に「変革」をもたらす。ひいては社会全体に「変革」を及ぼす可能性がある。したがって、プロジェクト内のパフォーマンスのみを重視する内向きなリーダーシップでは不十分で、その成果を積極的にプロジェクト外に情報発信し「変革」のカギとなるステークホルダーを巻き込み、繋げることにも力を注ぐ必要がある。

そこには旧来型の「受発注に基づく契約履行」「組織の上下関係」「評価と報酬」といった強制力を背景としたリーダーシップのみならず、「ミッション」「モチベーション」「エンゲージメント」といった組織と組織、人と人との「本質的目標の共有」と「お互いのパフォーマンスを最大化する関係性・繋がり」を意識したマネジメントが重要となる。この2つを重視したリーダーシップスタイルとして、「多様なコラボレーションを生み出すサーバントリーダーシップの実践」の重要性が今後増してくると考えられる。

過去にネット系金融機関向けに国際的なセキュリティ認証の取得支援をした際にも、弊社と契約関係のない認証機関と密な協業を行いつつ、関連する事業部門、システム部門、営業部門を第三者的な立場からプロジェクトを牽引する役割を求められた。このプロジェクトでは、並列で同等な力関係にある各組織のキーパーソンを適切に巻き込み、プロジェクトの「本質的目標の共有」を繰り返し行い、時には自ら「火中の栗」を拾うことでプロジェクトへのコミットメントを明確にし、関係者が動きやすい環境を作ることに力点を置いたサーバントリーダーシップを実践することにより、当初の計画通りにプロジェクトを完遂することができた。

こうした様々な利害関係者を繋げ、プロジェクトを推進する支援スタイルは弊社が最も得意とするコンサルティングの1つともいえる。

プロジェクトマネジメントスキル強化の「羅針盤として」

以上、タレント・トライアングルを軸に、DX推進プロジェクトに必要なプロジェクトマネジメントスキルについて考えてみた。今回挙げた3領域の視点は、従来から各所で言われてきたことではあるかもしれない。しかし、実際の能力開発としてすべてのスキルを網羅的に経験し、身に付けることはなかなか難しい。

この課題に対して私が積極的に行っているのは「社外の専門家と業務外で実プロジェクトをやってみる」ということである。単に社外の人とつながり、勉強会をする、交流会をするだけではなく、実際にある目的を決めてプロジェクトをやってみることである。

そのために私自身も先述のPMI日本支部の理事をはじめ、地方創生・起業家支援団体の運営、ITベンチャーへの個人的な経営参加など、今巷で注目されつつある「パラレルキャリア」「副業」「越境」と呼ばれる活動を積極的に取り入れ、自身のプロジェクトマネジメントスキルの強化に活かしている。その際には「このプロジェクトにおいて重視すべきスキルは何か? 自分が提供できるスキルは何か? 自分が強化できるスキルは何か?」ということを常に考えながら活動を行っている。これは通常の業務においても同様ではあるものの、未経験のスキルに対して積極的に試行錯誤できるという点において、貴重な機会であると考えている。

本稿を読まれた皆様も、そういったことを常に考えながらプロジェクトを推進する際の「羅針盤」として、タレント・トライアングルの考え方を活用していただければと思う。


斉藤 学 Manabu Saito

スカイライト コンサルティング シニアマネジャー
2002年スカイライト コンサルティングに参画。官公庁、大手民間企業を中心に社会変革に繋がるプロジェクトに従事。2016年よりプロジェクトマネジメントの国際的組織であるPM(Project Management Institute)の日本支部のボードメンバーとして、様々な業界・業種におけるプロジェクト推進の調査研究を手掛けるとともに、「プロジェクトマネジメント・エバンジェリスト」として企業家向け研修講師、大学等教育機関での講義、各種イベントでの講演活動を行うなど、国内におけるプロジェクトマネジメント啓発・普及活動をリードしている。

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Skylight Consulting Inc.

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