「海外進出では現地にいて引っ張る役割の人が必要」 中山氏
小川:では、中山さん、お願いします。
中山:1998年に大学を卒業して、ベイン・アンド・カンパニー(以下、ベイン)というコンサルティング会社で働いていました。最後のプロジェクトがインスタント食品会社の世界戦略で、当時180くらいの国と地域を見たんです。GDPと人口をある程度の基準に決めてしまうとじっくり見るべき対象は少なくなるので、「なんだ、2週間くらいで全部見れるんだ」と思ったということがありました。
もともと起業志向があったので、2年でベインを辞めて2000年に起業しました。なんとか10年間、資金調達を繰り返して生き延びたんですが、共同創業者に事業を渡して辞める大きなきっかけになったのはリーマンショックでした。というのも、売上数億円の企業でもマクロ経済の影響をもろに受けるんだと思ったのが大きな衝撃で。
その後、スペインのMBAに行き、当時35歳でしたが、残りの人生の半分を日本の外で暮らせないかなと思ったんですよ。こんなにいろんな国があるのに、一生日本しか知らなくて死んでいっていいのかというのがあって。ビザの問題もあるので、難しいことは理解していましたが。日本に戻ればマクロ経済は沈んでいくのでしんどいと思う一方、日本で生まれ育って教育も受けさせてもらって何かできないかということを考えたんですね。MBAに行って、時間に余裕があると、いろいろでっかいことを考えるんですよね(笑)。
スペインにいて、海外での日本のプレゼンスを上げたいと思ったのが一つ。もう一つは、ベイン時代のクロスボーダーM&AのデューデリジェンスやPMI(Post Merger Integration)の経験から、海外企業が日本市場で元の手法のまま展開できないのと同様、日本企業が海外に出ていくときに日本式のやり方でやっていてはいけないということ、外から引っ張る人の存在が重要だと感じていました。海外から日本への進出事例ですけど、たとえば、日本マクドナルドの藤田田さん、セブンイレブン・ジャパンの鈴木敏文さん。逆に日本から海外に出るときに現地でそういう信頼できる人が見つかればいいけれど、それは簡単ではなく、現地で引っ張る役が必要なんじゃないかなと思ったんですね。
マクロ経済の伸び代がある地域・日本人があまりいないところ・安全に暮らしていけるところという3つの基準を以って、確認のために3ヶ月くらい中南米を周ったんですけど、ブラジルは条件を満たしました。人口の1%が日系人で超親日国なんですよね。2014年にサッカーW杯、2016年にリオ五輪も決まっていたので、今、中南米に行くならブラジルだなと思ったんですよ。その感覚は今もあって、コロンビアとかペルーとかはもうちょっとあとに行っても、まだまだ伸びるだろうと。ブラジルは今かと。
スタートアップと企業をつなぎ、チームで20年後の産業を創る
小川:起業家だった中山さんがVCを始められたのは、スタートアップに対して何か思い入れがあったんですか。
中山:日本で起業したときの一つの反省として、自分が知っている領域じゃないと時間がかかると思ったんです。苦労もしましたが、数億円の調達もしたし、デットファイナンスの経験もありました。ブラジルのVC市場を見ると、自分が起業したときの状況に近かったんです。困っているブラジルの起業家が絶対にたくさんいるし、一人でできることなんて限られているかもしれないですけれど、自分の経験で何かしら周りの人に貢献できるんじゃないかと思いました。
もう一つ思ったのが、実はスタートアップがやっている事業って、20年後の産業を創っているイメージだと思うんですよね。アフリカとロシアも同じかもしれないけれど、3年でビジネスになるものってないわけです。実は日本の中でもそんなにないわけで。今チャンスのビジネスではなく、将来チャンスがあるビジネスにタッチした方があとあと、幅が広がるかなと考えました。日本経済とブラジルの経済をつなげていく上で、その領域の方が投資家としてバリューを出せるかなと考えてシードのベンチャー投資を始めた――そんな経緯です。
小川:なるほど、面白いですね、20年後の産業を創るというお話。僕もシードVCがそれほどなかった2007年にスカイライトでシード投資を始めましたが、少なくとも10年はかかるなと覚悟していました。
出資者にとっても、VCにとっても、投資のリターンはお金だけじゃない
小川:牧野くんはVCになればいいのにと言われてたけど、VCにはなっていないですね。
牧野:そうですね、経験があるわけではないので、嫌だということではないんですが、起業家サイドにいたかったというのがあります。VCって人のお金を再投資するから、ファンドの償還期限というものがあるじゃないですか。市場の合理性という点では理解できるんですが、事業って10年、20年かかり、そこに幸せが生まれているのに、そこに期限というものがあるというのがしっくりきていない部分があります。なので、自社の売上や自分のマネーを使って投資することには興味があるのですが。
小川:なるほど。寺久保さん、どうですか。基本的にはずっとVCですもんね。
寺久保:そうですね。投資家にリターンを返すことは前提として、VCができることってすごくたくさんあるのかな、それもお金の価値じゃないところにあるのかなと思っていて。たとえば、僕は新しいファンドを作って、そこからアフリカの企業50社に投資していこうと思っているんです。中山さんの20年後の話、まさにそうだなと思っていて。アフリカは社会基盤・経済基盤を今、作っていかなきゃいけないので、現地スタートアップや日系企業が一緒に連携しながらやっていく橋渡し役というか、一緒に作っていくプレイヤーとしてやれるのが、僕の思うVCの価値だと思っています。
中山:牧野さんの話は、非常によく理解できます。たぶん、寺久保さんも含めて世界中のVCは手元に1000億円あったら、人のお金なんて運用しないで自分のお金から投資したいと思っているんじゃないかな。資金調達は大変だし、お金を預かっているわけなんでちゃんとリターンを返さなきゃいけないし、そこにまつわる手続きも膨大なので、ま、やりたくないんですよね、実際は(笑)。
VCであることの意味は「インパクトの大きさ」と「時間の縮め方」だと思っています。ベンチャー企業の資本政策ってすごく難しいんですよね。でもそこって、知っているか知らないかなんです。起業家は1つか2つしか起業しないのがほとんどだと思うんですけど、先ほどの寺久保さんの話で言うと、(VCは)50とかを数年で見るわけですよね。そうすると、どういうフェーズの、どういう事業は、どのタイミングで、どれくらいのお金を、どう調達していくのかは、知っていることからわりと導き出せるんです。
もう一つ、投資している人は、金融リターンだけを求めているわけではないんです。市場に対するアクセスとか得られる情報とかに関心を持っている人も多いです。そういう人たちを投資先とつなげるということを考えると、僕がエンジェル投資家で自分の1000億円でやっているよりも、他の人たちの1000億円だった方が、最終的に与えられるインパクトは大きいんじゃないかなと。でも、手元に1000億円あったら、自分で投資したいように投資します(笑)。
寺久保:僕もまったく同じことを思います。50社の起業家に対して、投資家は上から接する役割ではなくて、チームとして一丸となって「再現性」を作っていくというのが重要だと思っています。起業は限られた資本と時間の中での戦いなので、どれだけ失敗を減らすかが重要で、集合知みたいなものをシェアするために、起業家のコミュニティを作り、そこでは毎月、投資先の起業家同士で「最近、こんなことやっています」とか、何が上手くいって、何が上手くいかなかったかを共有し、それぞれ学び合って、フィードバックし合ったりしています。同じことが日系企業に対しても提供できると思っていて、アフリカにまだ進出できていない日系企業とブリッジできれば、スタートアップから与えられる示唆はめちゃくちゃあると思っています。