現地のスタートアップと日系企業をつなぎ、20年後の産業を創っていく

INTERVIEW

ベンチャーキャピタリストとしてブラジルで活躍されている中山様、アフリカで活躍されている寺久保様、ロシアでスタートアップ企業を支援されている牧野様にお集まりいただき、各国のスタートアップビジネスの特徴や日本企業との連携にまつわる展望について、弊社の小川がお話を伺いました。 (2020年9月29日にオンラインにて実施)

株式会社ブラジル・ベンチャー・キャピタル 代表取締役
中 山 充 氏
ベイン・アンド・カンパニー(東京)、起業を経て、2012年よりブラジルに移住。ベイン・サンパウロ勤務後、ブラジル・ベンチャー・キャピタルを創業。ラテンアメリカでのベンチャー投資、日本企業のラテンアメリカ進出支援を行う。/早稲田大学卒業。IEビジネススクールMBA/著書『中小企業経営者が海外進出を考え始めた時に読む本』『未来をつくる起業家 ブラジル編』/ブラジル日本商工会議所イノベーション研究会幹事/JETROグローバル・アクセラレーション・ハブ サンパウロ担当

株式会社アンカバードファンド 代表取締役
寺 久 保 拓 摩 氏
学生時代にバングラデシュのグラミン銀行でマイクロファイナンス事業に従事、金融の力で企業群を生み出すことが世の中に多くの雇用と価値をもたらすことを知り、日本に帰国。その後2013年にVCへ入社、日本・イスラエルを中心にオープンイノベーションを実施し多数のスタートアップ・大企業を支援。2018年ケニアへ移住し、VCとしてアフリカのスタートアップ支援を開始

SAMI LLC. FOUNDER & CEO
牧 野 寛 氏
東京外国語大学ロシア語卒。学生時代から日ロ学生コミュニティの立ち上げ・運営を行う。楽天株式会社にてEコマース事業部のセールス・BizDevに従事。サンクトペテルブルクにて、日系企業のロシア進出をサポートしたのち、2017年にロシアのスタートアップの日本進出、日系企業とのコラボレーション支援を行うSAMIを起業。 同市のビジネスインキュベーターや大学でスタートアップの外部メンターも務める。

スカイライト コンサルティング株式会社 リードエキスパート
小川育男
事業立上や事業企画のコンサルティングを実施しつつ、2007年からシード投資および投資先の事業・経営支援を実施。2014年頃からロシア、タイ、シンガポールをはじめとした国外のスタートアップの調査も行っている。


海外と言えばアメリカを指していた

小川:本日は、よろしくお願いします。皆さんにそれぞれの経験を話していただきながら、一緒に考えていくことができればと思っています。

初めにイントロとして僕の話をさせてください。今でこそ、ロシアやケニア、タイ、シンガポールなどでスタートアップを見てきていますが、SEとして仕事を始めた1990年代後半はちょうどインターネットが商用化された時期で、シリコンバレーにしか注目していませんでした。当時の僕にとっては海外と言えばアメリカで、出張もアメリカにしか行ったことがなくて。ですが、7、8年前に弊社の社員旅行で台湾に行くことがあって、米国以外に目を向けるきっかけになり、その後、縁あって2015年に訪問したモスクワのスコルコボというロシア政府主導のイノベーション・センターで、米国、日本以外のスタートアップに出会いました。今からするとあたりまえなんですが、当時の僕の頭ではスタートアップと言えばシリコンバレー。それが、全然知らなかったロシアでもそういう活動をしている人たちがいるということに衝撃を受け、文字通り、世界が広がった気がしました。そんな僕からすると、お三方は最初からアメリカなんかそっちのけでブラジル、ロシア、アフリカに行っている方々ですので、非常に興味深いです。

そこで、まず、それぞれの国にどんな魅力を感じて行ったのかを教えてもらえますか。

「東日本大震災のときの経験が原点になっています」 牧野氏

牧野:では、僕からいきますね。

SAMIの牧野と申します。寺久保さんとは一度、お会いしていて、中山さんとは、弊社のスタッフがイベントに一緒に参加させていただいたご縁があります。

僕はずっとバスケットボールをやっていたこともあり、NBAのあるアメリカに憧れのようなものがありました。それで大学留学を目指して、高校生のときにアメリカに乗り込んだんですけど、なんだかそりが合わなかったんですよね。結局、東京外国語大学でロシア語を勉強することになるんですけど、当時はまだ、ロシアはBRICsの一つである、くらいのイメージで、その後こんなに傾倒することになるとは思っていませんでした。ロシアに留学していたのが、ちょうど東日本大震災が発生したときで、そのときに、いずれロシアで起業しようと思いました。

というのも、僕としては東日本大震災のときに日本にいれなかったというのがものすごく大きくあります。戻れなかった……戻れなかったので、やりたいことがいっぱいあったのにできなくて、今僕ができることは何かと考えたときに、学生団体を現地で立ち上げて、日本の現状をロシアで伝えようと思いました。そんななか、当時ロシア経済は結構よかったものの、市井のおばあちゃんたちは全然お金がないなかで、それでも、50ルーブル(当時150円くらい)を持って来て涙を流しながら募金をしてくれたことは、めちゃめちゃ心に響きました。道を歩いていると、ロシアの全然知らないおじさんとかおばあちゃんとか若者に「お前の家族は大丈夫か」って声をかけられるんですよ。「いずれ、何かしらの形で恩返ししなくてはいけない」と思い、ボランティアなどではなく、継続的に提供できるものとしてビジネスで恩返ししていこうと考えたのが原点です。

一旦、楽天で働いたあと、2016年にサンクトペテルブルクに移住し、2017年にSAMIを起業しました。起業前から小川さんには相談に乗ってもらっていますが、最初はロシアのスタートアップの日本進出支援から始め、現在ではプロダクトカンパニーになっていこうとしています。オンラインでピッチイベント(投資家・企業に対して行われるスタートアップのプレゼンテーションイベント)を開催する際、ピッチ自体は事前に録画しておくことが多いのですが、スタートアップ側が簡単にピッチ動画が作れて、かつ、イベント主催側がそれらを集めて簡単に管理できる、というサービスを提供しようとしています。

「アフリカでは国づくりにスタートアップが関われるというのがすごく大きい」 寺久保氏

寺久保:僕はもともと、日本でスタートアップをやろうと思っていました。学生のときにサイバーエージェントでインターンとして複数のサービス立ち上げを経験し、いよいよ自分で起業するとなったとき、人生を賭けて取り組むようなテーマがなかった。企業は「売上」や「時価総額」で評価されるけど、もっと違うことがあるのではと思っていたときに、2006年にノーベル平和賞をとったグラミン銀行という銀行があるとたまたま本で読んで知って衝撃を受けたんです。ホームページから「行きたいんだけど」って問い合わせをしたら、5分くらいで返信があって「来ていいよ」と言われたので、3ヶ月くらい現地に行き、実際にどんな活動をしているのか見せてもらったんですね。

グラミン銀行は、マイクロファイナンスと言われる、貧困層にお金を貸して自立した生活が送れるように支援する銀行なのですが、起業家を生み出していく仕組みに近いなと感じたんです。融資した村の人と週1回ミーティングして、事業が拡大していくように助言と支援をしていく。また、グラミン銀行は、そのマイクロファイナンスから出た利益を使って、携帯電話や、医療、電力の会社を作り、国が発展するために必要な企業を立ち上げていました。課題解決をしつつ、企業網を作り、国が発展していく仕組みを作る。そういうことが、テクノロジーの領域でできないかなと思ったときに、初めてベンチャーキャピタル(以下、VC)という考えに行き着いたんです。日本に帰って来て、シード期のスタートアップに投資するサムライインキュベート(株式会社サムライインキュベート、以下 サムライ)に入ったのが最初のきっかけですね。そのころには、いずれ新興国でVCをやろうと決めていました。

サムライでは、イスラエルの起業支援やオープンイノベーションの支援をしましたが、イスラエルの人たちはものすごくイノベーションを起こすんですね。日本ではイノベーションというとシリコンバレーと言われていたんですけど、そうじゃなくて、違うところにも優秀な起業家はいると思ったんです。まだ世界の中で発掘されていないところ、支援ができるところを考え、アフリカに行ってみようと思い立ちました。

2017年に初めてアフリカに行きました。アフリカって54ヵ国あって、どこに行っていいか分からなかったんですが、イスラエルではルワンダの話をよく聞いていたんですよ。ルワンダもイスラエル同様小さい国で、技術開発から世界に進出するというようなことを考えていると。なんのつながりもなかったのですが、政府の中でスタートアップ支援している人を紹介してもらって、とにかく行ってみたんです。1週間の滞在の間に、その人からどんどんつながって、4日目くらいにICTの大臣までたどり着いて。スーツさえ持っていれば大統領にも会えたんですけど(笑)。

ルワンダから入って、今はケニアやナイジェリアなど市場の大きなところで活動しているんですが、アフリカが面白いのは、今後国が発展していくというなかで、国づくりにスタートアップが関われるというのがすごく大きいですね。たとえば、住所を整備する仕組みや救急車を呼ぶ仕組みづくりをモバイルをベースにスタートアップが担っていたりだとか。そういったスタートアップを30年とか50年の長期で見たときに、今の日本の大企業のようになる可能性があるところだと思います。いち早く彼らと一緒に取り組めるというのは僕にとっても面白いチャレンジです。

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